奈良弁護士会

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明

奈良弁護士会
会長 兒玉 修一

 

  1.  本年27年4月28日、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下、「本法案」とする)が、国会に提出された。本法案は、2013(平成25)年12月に国会に提出され、様々な問題点が指摘される等して審議が進まないまま、衆議院の解散により廃案となったにもかかわらず、再提出されたものである。
  2.  本法案には、以下のとおり、多くの問題点がある。
    (1) 賭博は原則として違法である
      カジノは賭博である。賭博は、社会風俗を害する行為として、刑法で処罰の対象とされている。違法行為の例外を認めることは、慎重になされるべきである。
    (2) ギャンブル依存症が拡大し、多重債務問題が再燃するおそれがある
    2014(平成26)年8月20日に発表された厚生労働省研究班の発表によれば、ギャンブル依存症の疑いのある者は、男性8.7%、女性1.8%、推定536万人とされ、諸外国が1%であることと比較し、有症率は極めて高い。ギャンブル依存症は深刻な社会問題となっている。カジノを解禁した場合には、ギャンブル依存症患者数がさらに増加するおそれがある。また、ギャンブルは多重債務問題の原因の一つであり、カジノの解禁により、沈静化の傾向にある多重債務問題が再燃するおそれがある。
    (3) 青少年の健全な育成への悪影響がある
    本法案が予定しているIR方式(カジノが、会議場、レクリエーション、宿泊施設その他と一体となって設置される方式)は、家族で出かける先に賭博場が存在する方式である。そうすると、青少年らは、幼少のころからカジノに接することとなり、賭博に対する抵抗感を持たないまま成長せざるを得ない。そのような環境が、青少年の健全な育成に悪影響を与えることは明らかである。
    (4) 暴力団対策上の問題点がある
    カジノを解禁すれば、暴力団が資金獲得のためカジノへの関与に強い意欲を持つことは、容易に予想される。
    暴力団自身が事業主体となり得なくとも、従業員の送り込みや事業主体の下請等の種々の脱法的方法によりカジノ事業及びその周辺領域での活動に参入し、新たな資金源を獲得する可能性がある。
    (5) マネーロンダリングに利用されるおそれがある
    我が国も加盟しているマネー・ロンダリング対策・テロ資金供与対策の政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の勧告において、カジノ事業者はマネー・ロンダリングに利用されるおそれの高い非金融業者として指定されている。仮に、カジノ解禁とともに、カジノ事業者に対し様々な規制を課したとしても、マネー・ロンダリングを完全に防ぐことは困難であると考えられる。
    (6) 経済的合理性への検証が不十分である
    カジノ解禁による経済的効果は、いまだ客観的な検証がなされているとは言えない状況にある。
    仮にカジノに経済的効果が認められたとしても、上記のとおりカジノは多くの問題点を有し、国民経済や社会に深刻な悪影響を及ぼすことが大いに懸念されるのであり、そのような不利益を受け入れてまで、経済的効果を求めるべきではない。
    (7) 奈良県民にも悪影響が及ぶおそれがある
    報道によると、奈良県に隣接する大阪府内において、カジノの解禁を前提に、カジノの誘致が計画されているとのことである。
    仮に、大阪府にカジノが開設されれば、奈良県からもカジノを原因とするギャンブル依存症者や多重債務者が発生する等、奈良県民にも悪影響を及ぼすことが懸念される。
  3.  本法案は、前回の提出時と異なり、弊害を除去するため、「政府は、前項に定めるもののほか、外国人旅客以外の者に係るカジノ施設の利用による悪影響を防止する観点から、カジノ施設に入場することができる者の範囲の設定その他のカジノ施設への入場に関し必要な措置を講ずるものとする。 」(法案第10条2項)という規定が加えられている。
    しかし、内国人の入場を一定程度制限したとしても、上記の様な懸念が全て解消されるわけでもなく、また、実効性のある制限がなされる保障もない。
  4.  以上のとおり、本法案は、経済的効果に対する検証が不十分なものであるうえ、多大な弊害をもたらすものである。
    よって、当会は、本法案に強く反対するとともに、国会に対し、速やかに本法案を廃案とするよう求めるものである。

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