奈良弁護士会

修習給付金の創設を内容とする改正裁判所法成立にあたっての会長声明

 奈良弁護士会 
 会長 緒方 賢史

 

  1.  去る4月19日,司法修習生に対する修習給付金の支給を主な内容とする「裁判所法の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が参議院本会議で可決され,成立した。これにより,本年度以降採用となる司法修習生へ月額13万5000円の基本給付金が支給されるほか,場合により,住居給付金及び移転給付金が支給される運びとなった。
  2.  近年の法曹志望者の減少は,法の支配を支える基盤の衰退を招きかねない由々しき事態であって,当会は,この事態にかねてから深刻な危機感を抱き,2014(平成26)年12月2日には,給費制の復活を求めることを含む4項目からなる法曹養成制度の改善を求める総会決議を行っている。
     
    この度の法改正は,同決議の趣旨に適うものであり,法曹資格取得までの経済的負担を緩和する点で,法曹界への有為な人材確保に資することが期待できる。給費制復活の求めにご賛同いただいた方々,また,改正法成立にご尽力いただいた国会議員並びに奈良県議会議員各位に対しては,心から敬意と感謝の意を表する。
     
  3.  しかしながら,まず,給付金額が司法修習生に対する経済的支援として適切であるのかについては,引き続き検討が必要である。すなわち,司法修習は,法曹としての実務能力や高度の見識,倫理観等を習得するための不可欠の制度であり,かかる意義から司法修習生には原則として副業が禁止され,修習専念義務が課せられる。これを果たすには経済的不安のない生活基盤が不可欠であるが,上記修習給付金をもって十分といえるのか,疑問が残る。
     
    また,改正法の効力が遡及しないとすると,2011(平成23)年の給費制廃止以降,無給のまま司法修習を終えた世代と他世代との間において著しい不公平が生じることとなるが,この点も看過できない。同じ修習専念義務を負い修了した点で何ら差異はないため,かかる不公平を合理化する理由はなく,これに対する早急な是正措置が求められる。
  4.  そして,法曹となる人材を真に確保するためには,法科大学院もしくは予備試験を経て司法修習生,法曹へと至る一連の過程を捉えた大局的な対策が必要である。修習給付金の創設により,すべての問題が解決するわけではない。法曹養成制度には未だ様々な問題点が指摘されている現在,さらなる抜本的対策は急務であろう。
     
    以上のとおり,当会は先の法改正を法曹界にとっての前進と評価するが,なお問題が残るため,その解消に向け検討が続けられなければならない。当会は,国に対しては,より一層の総合的な対策を求めるとともに,関係諸機関と連携の上,引き続き必要な活動を継続するものである。

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