奈良弁護士会

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会長声明

無限定な「自衛の措置」を可能にする憲法「9条の2」創設に反対する会長声明

2019/01/23

 奈良弁護士会 
 会長 西村 香苗
 

 一昨年5月から憲法9条1項・2項はそのままに自衛隊の「存在」を明記するための改憲案(自衛隊明記案)が提案されている。昨年3月には具体的な「9条の2」の条文案が出され、同案が衆議院憲法審査会に提出されようとしている。

 なるほど、1954(昭和29)年に自衛隊が創設されてから既に60年以上がたつ。しかし、これは、武力を行使する組織である。他方、日本国憲法は「戦争は最大の人権侵害である」との認識のもと、前文において「平和的生存権」を規定するとともに、9条において戦力不保持・交戦権否認まで規定するという、徹底した平和主義を採用している。それゆえ、自衛隊の存在が憲法に違反するか否かについては、常に議論が続いてきた。

 ただし、自衛隊の存在を合憲としてきた歴代政府も、その任務については「専守防衛」の範囲内での武力の行使に限定し、その枠組みを超える集団的自衛権の行使等はしないことを国是としてきた。それは、徹底した平和主義を採るわが国の憲法の下で武力の行使が認められるとすれば、その武力行使が国民の平和的生存権やその基本的人権(憲法13条)の保護の必要性によって正当化されうる場合、すなわち「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権限が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置としてはじめて容認」される、という解釈がなされてきたからである。

 ところが、政府は、2014(平成26)年7月、新たな閣議決定により、従前の政府解釈を覆した。また、翌2015(平成27)年9月には、「存立危機事態」における集団的自衛権の行使など、専守防衛の枠組みを超え、自衛隊が、わが国が武力攻撃を受けていないにもかかわらず、他国領土・領海・領空において武力を行使することを可能とする、いわゆる「安全保障関連法」が、強行採決により成立した。これらの内容は、従前自衛隊の存在を正当化してきた論理の延長では説明できず、憲法上許容しえないとの批判があり、当会もその旨の見解を明らかにしている。

 そのような状況の下、冒頭で述べた「自衛隊明記案」が提起されている。しかし、そこで明記される自衛隊の「任務」については十分な説明がなされていない。

 現在、提案されようとしている具体的な条文案(昨年3月に自由民主党憲法改正推進本部が方向性を示した新設の9条の2の条文イメージ)によれば、新たに明記される「自衛隊」の任務は、「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置・・・・・をとること」、つまり「自衛権」の行使である。そして、国連憲章51条の規定によれば、「自衛権」には、個別的自衛権のみならず集団的自衛権も当然に含まれるから、この案では、「存立危機事態」はもとより、それ以外の場面でも集団的自衛権の行使が容認されることになる。他方、9条1項・2項の規定は残されるが、新設の9条の2において「前条の規定は…自衛の措置をとることを妨げず」とされているため、実質的な意味を失う。

 このような改正がなされれば、わが国は、「自衛隊」という名前の「普通の国の軍隊」を保有することになる。日米安保条約(日米同盟)の下、米国に追随して、他国における武力の行使がなされることも予想され、わが国の憲法の平和主義は根底から変化することとなる。

 また、上記の「9条の2」案には「自衛権」行使の範囲について限定がないうえ、国際法上の自衛権の概念が不明確であることから、「自衛隊」という名の軍事的実力組織がいかなる手続でいかなる武力行使を行うかは、内閣と国会に白紙委任されることとなる。戦争が最大の人権侵害であることに鑑みれば、これは、権力の行使を憲法に基づかせ、国家権力を制約し国民の権利と自由(基本的人権)を保障する立憲主義を大幅に後退させるものと言わねばならない。

 しかも、この自衛隊明記案については、自衛隊の存在を明記するだけで、任務については何ら変化がないかのような説明がなされている。これは、主権者たる国民に対する極めて不正確かつ不誠実な説明である。

 よって、当会は、現在提案されようとしている自衛隊明記案の内容に強く反対するとともに、その内容を広く国民に伝えるべく全力を尽くす所存である。

以上

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