奈良弁護士会

0742-22-2035
意見書

奈良県生活科学センター統廃合反対及び拡充の要望

2000/10/17

第1 要望の趣旨



『奈良県生活科学センター』及び『奈良県第二生活科学センター』の統廃合に反対するとともに、消費者被害の簡易、迅速、公正な紛争処理機関として、『奈良県生活科学センター』及び『奈良県第二生活科学センター』が行う苦情処理体制を一層拡充・強化することを要望する。

第2 要望の理由


(1)問題の所在

  1. 全国のいわゆる消費生活センター(奈良県においては『奈良県生活科学センター』及び『奈良県第二生活科学センター』。以下総称して『奈良県生活科学センター』という。)は、消費者支援のための様々な活動を行っており、その中心業務は、苦情相談の受付処理である。消費生活センターの苦情相談受付件数は増加を続け、最近では全国で年間60万件を越える相談が同センターに持ち込まれている。消費生活センターの苦情相談処理に対する地域住民の需要は年々増加し、その内容は複雑化・多様化・専門化してきている。

    さらに消費者契約法の制定に象徴されるように、政策の重点が行政の保護主義的な事前チェック型から、自己責任を重視した事後チェック型に移行する中で、消費者契約法案に対する衆議院附帯決議にみられるように、都道府県・市町村において、その住民が身近な消費者センターで適切な情報提供・苦情相談・苦情処理を受けられる体制を確保することが強く求められるに至っている。

  2. 他方、近年地方財政の逼迫や地方分権改革に起因して、消費者行政の分野でも、都道府県や市町村の役割分担が再検討され、神奈川県や広島県など一部の県で、消費生活センターの統廃合の動きが見られる。即ち予算面で見ても、経済企画庁が消費生活センターに交付している生活情報体制整備等交付金は、1997年度より減少に転じており、1996年度には約5億6000万円あったものが、2000年度には約3億9000万円と、この5年間で30%も減少しており、それに伴って各都道府県及び市町村の消費者行政関係予算も漸減し、1996年度には合計191億円、1999年度には155億円と、この4年間で約19%も減少しているのである
    このような財政縮減の動きは奈良県でも同様であって、総予算としては伸びているのに、消費者保護費予算のうち生活科学センター費は、1997年には2億8913万円であったものが、1998年には2億4508万円に、1999年には1億9144万円にと漸減している。そんな中、1999年3月には、奈良県行財政改革大綱(改訂版)が発表され、その中に出先機関の簡素化・合理化、統合等を含めた見直しがうたわれたことで、『奈良県生活科学センター』の統合問題が新聞に大きく取り上げられる事態になり、今後この『奈良県生活科学センター』の統合問題がクローズアップされてくることが懸念される。

  3. 消費者保護基本法15条2項には、「市町村は事業者と消費者との間の取引に関して生じた苦情の処理のあっせん等に努めなければならない」と規定されていることを捉え、苦情処理や苦情相談は本来的には市町村の業務であり、県と市町村とで同じ地域苦情処理相談を競合させることは、重複行政だとして合理化の対象と考えるむきもある。

    しかし、同法15条3項においては都道府県について「苦情が適切かつ迅速に処理されるようにするために必要な施策を講ずるように努めなければならない」と定め、都道府県にも苦情相談処理についての責務を課しており、以下に検討するとおり、『奈良県生活科学センター』は市町村の苦情処理相談とは異なる役割、効果を有している。仮に、市町村の苦情相談処理体制が十分に整備されたとしても、都道府県の苦情処理相談と同様の役割、効果を得られるものではなく、合理化の対象とすべきものではない。市町村の苦情処理相談体制が十分整備されているとはいえない現段階においてはなおさらのことである。


(2)『奈良県生活科学センター』の役割、効果

  1. 広域的苦情処理相談、地域格差是正
    現在の消費者問題は市町村の区分を越え広域に渡るものとなっているところ、市町村における相談窓口では、市町村という「枠」の制限により十分な対応が図れないのが現状である。

    そして、これら市町村を越えた問題については、県が主導的立場においてその対応処理をせざるをえず、また、各市町村に分散した同種事案についても県が一括した対応処理を行うことによる早期の統一的解決も可能となる。

    加えて、県は各市町村での相談を望まない、または望めない消費者への対応窓口としての役割をも果たす必要がある。

    現在の市町村区分による窓口では、常設の相談窓口があるのは奈良市、生駒市、大和郡山市のみであり、他の市町村は週に1~2日あるいはそれ以下の相談日しかなく、即日の相談が困難な市町村が多数存在する。また、特に小規模市町村では地元での相談に躊躇を覚えたり、通勤通学等により居住する市町村での相談が困難との事情を有する消費者が多数存在する。

    これらの消費者に対しては、単に市町村の相談窓口を増加させるだけでは対応しえず、また、現在の市町村区分のまま全ての市町村の相談窓口を増加させることは現実的なものとはいえない。

  2. 専門的苦情処理相談
    苦情相談は年々その内容が高度化、複雑化しており、相談員が専門的知識を習得し、専門家の支援を受けることが適切かつ公正な処理を行う上で重要になっている。『奈良県生活科学センター』は商品テスト施設を有し、相談員と弁護士、国のテスト機関職員との事例研究を行う等により、相談員の専門性を高めている。他方、市町村においては右のような条件は現在整えられていないし、これを全ての市町村において整えることは事実上困難である。

  3. 情報の収集、提供機関としての役割強化
    上記1、2のような広域的あるいは、専門的苦情処理相談に適切に対応するためには、『奈良県生活科学センター』や市町村窓口に寄せられる相談等の情報を収集するとともに、収集された情報を的確に分析し、それらを実際の相談、苦情処理の場に還元する必要がある。『奈良県生活科学センター』には、これら情報の分析、還元という単に相談、苦情処理に止まらない役割が求められているのである。

    『奈良県生活科学センター』は、市町村消費者行政担当課長会議の開催による意見交換等において県レベルでの消費者問題を収集するにとともに、担当者が相談を情報化して、全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIOーNET)に入力し蓄積することで、全国レベルでの情報をも収集し、その情報の収集・分析結果を消費生活教室、展示事業等の実施により住民に提供している。

  4. 裁判外紛争処理
    『奈良県生活科学センター』が受け付けた相談件数は年間5894件(平成12年度消費者行政の概要)、奈良簡易裁判所が受け付けた調停事件が795件であり、奈良弁護士会の法律相談件数は年間977件(うち248件は南和法律相談センター)である。特に消費者トラブルについてみれば、弁護士・裁判所における紛争処理件数をはるかに超える件数を『奈良県生活科学センター』が処理しており、まさに必要不可欠の裁判外紛争処理機関である。他方、前述のとおり、市町村においては常設の相談窓口ない地域が多数存在し、特にクーリングオフ制度の活用できる事案等においては早期に相談を受ける機会を逸したがために紛争解決が困難になる場合もあり、紛争処理機能の面では十分な対応が困難な状況にある。

  5. 許認可権限、指導監督権限を背景とした紛争処理
    また、市町村と異なり、県は各種許認可権限(例えば、貸金業の登録の一部、宅地建物取引業の免許の一部、食品営業の許可、病院開設の許可等)、指導監督権限(例えば、貸金業者に対する業務停止、宅地建物取引業者に対する指示及び業務の停止、無承認無許可医薬品の取り締まり等)を有しており、『奈良県生活科学センター』はこれらの権限を背景としてより迅速かつ適切な紛争処理をしうる。

  6. 消費者行政への反映
    さらに、『奈良県生活科学センター』での苦情処理は、単に個々の消費者問題に対して事後的な消費者救済を行うものにはとどまらない。すなわち、相談、苦情処理を通じて明らかとなる消費者問題の実体を捉え、個々の苦情、相談を普遍化した上で、消費者行政に生かしていくための重要な手段ともなるのである。かかる消費者問題の消費者行政への反映は、もとより県がその責務として行うべきものであり、今後、各市町村の消費者相談窓口が整備充実なされようとも、そのデーター収集のみによっては十分に機能し得ず、都道府県が自ら相談苦情処理業務を行い、実際に情報を取得することによって果たしうるものなのである。

(3)『奈良県生活科学センター』の現状

相談窓口としては生活科学センター、第二生活科学センターともに月~金の9時~17時までの間の電話または来所の方法により実施されている。両センターとも2本の電話回線を有し、相談員数は、生活科学センターが6名で1日に出勤するのは3~4名、第2生活科学センターが4名で1日に2名である。正規職員は存在せず、非常勤、アルバイトの地位にあり、労働条件は1ヶ月10日から16日、1日8時間勤務で、給与月額は84,000円から134,400円で時給にすると1,000円余りである。

前述のとおり全国の消費生活センターの苦情相談受付件数は増加を続けているが、『奈良県生活科学センター』の相談件数は、平成8年度が6175件、9年度が5852件、10年度が5686件、11年度が5894件(消費者行政の概要)とほぼ横這い状態にある。市町村の苦情処理相談と『奈良県生活科学センター』の苦情処理相談の合計相談件数は増加していること、『奈良県生活科学センター』の相談件数を単純に相談日数で割ると、1日あたりの相談件数が20件程度となること、相談員の出張等で上記出勤人数より実際相談に当たることのできる相談員の人数がさらに少ない日もあることを考えると、相談の需要自体が横這い状態にあることによるものではなく、『奈良県生活科学センター』が処理能力を超えた状態にあり、相談件数を増やすことができないことによるものと考えられる。

『奈良県生活科学センター』の紛争に対する処理としては、相談のみにとどまらず、示談斡旋まで対応することもあり、示談斡旋まで行った場合の解決率は9割以上になるが、上記のとおり生活科学センターが処理能力を超えた状態にあることから、示談斡旋が適切な事案であっても、自主交渉のための助言にとどまらざるをえない場合が少なくない。


(4)まとめ

以上のように、県の権限と責任が増加する消費者行政において、都道府県がその責務を全うするためには、より地域に密着した市町村相談窓口との連携の上、都道府県が率先して相談業務を含めた生活科学センターの機能拡充に努め、広く県下の消費者に対応できる体制を整備するとともに、『奈良県生活科学センター』を単なる相談、苦情処理機関としてではなく、消費者行政の柱として機能しうるよう努めるべきである。

前述のとおり奈良県において『奈良県生活科学センター』の統合問題が論議されんとしているが、現在県により行われている『奈良県生活科学センター』の業務を市町村に委譲することを前提とするものであるならば、それは前述の都道府県が果たすべき役割を放棄し、消費者行政を後退させることに他ならず、到底容認しうるものではない。また、『奈良県生活科学センター』の相談件数は年間5894件、市町村窓口の相談件数は年間2320件(平成11年度消費者行政の概要)で『奈良県生活科学センター』が市町村の倍以上の相談を受けており、『奈良県生活科学センター』の統廃合、縮小等があれば、住民の相談に対応しきれなくなることは明らかである。

そして、前述の『奈良県生活科学センター』の機能、効果から考えれば、真に県が行うべきは、苦情処理及び情報の分析等に必要かつ充分な人員の確保、及び相談員の待遇改善である。加えて、市町村の相談体制が不充分な地域に第3、第4の生活科学センターを設置し、奈良県下における消費者行政を充実させることである。従って、『奈良県生活科学センター』の統廃合(同センター業務の市町村への委譲)には、反対である。

意見書
TOP