奈良弁護士会

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会長声明

秘密保全法制定に反対する会長声明

2012/11/21

奈良弁護士会
会長 山﨑靖子


  1. 2011年(平成23年)8月8日、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が、「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」と題する報告書(以下「報告書」という。)を政府に提出し、これを受けた政府は、現在法案化作業を進めており、次期国会への提出も予想される状況となっている。

  2. しかし、報告書が提案する秘密保全法制は、以下に述べるとおり、民主主義の根幹をなす国民の知る権利を侵害し、また「適性評価制度」のもと国民のプライバシーや思想・信条の自由を侵害し、さらには国民の裁判を受ける権利を侵害するおそれもあるなど、憲法上の重大な問題を有している。

  3. まず、秘密保全法制では、(1)国の安全、(2)外交、(3)公共の安全及び秩序の維持に関する情報で「特に秘匿する必要性の高い情報」を「特別秘密」と指定し、これの漏えい行為等に対し刑罰を課すことにより、「特別秘密」を保護するものとしている。

    しかし、特に「(3)公共の安全及び秩序の維持」との概念は曖昧で、非常に広範囲に及ぶ可能性がある。また、何が「特に秘匿する必要性の高い情報」に当たるのかは「特別秘密の作成・取得の主体である各行政機関等」が判断するものとされていることも考慮すれば、行政機関が保有する重要な情報、行政機関にとって知られたくない情報のほとんどが恣意的に「特別秘密」に指定されるおそれがあり、主権者である国民が知るべき重要な情報が、国民から秘匿されてしまう危険性がある。

  4. さらに、「特別秘密」の概念が非常に曖昧かつ広範なことに加え、その情報の漏えい行為については、過失犯、共謀、独立教唆、扇動、さらには「社会通念上是認できない態様」による「特定取得行為(取扱業者等からの特別秘密取得行為)」までが処罰の対象とされており、マスコミの取材活動を含め国民の様々な行為が処罰の危険にさらされるおそれがある。このように、処罰対象行為が非常に広範囲に及び、しかも「特別秘密」の概念が曖昧かつ広範であることは、罪刑法定主義に反するのみならず、特にマスコミの取材活動を萎縮させ取材・報道の自由を侵害し、ひいては国民の知る権利にも重大な悪影響を及ぼすことになる。

  5. また、秘密保全法制では、秘密情報を扱う者の「適正評価制度」の導入を提案しているが、適正評価のための調査は、人定事項や学歴・職歴に加え、外国への渡航歴、信用状態、精神の問題に係る通院歴などの重大なプライバシーに関する情報から、思想・信条に関わる事柄まで非常に広範囲に及ぶことが予定されている。そして、調査対象となる情報管理者は、公務員に限らず民間事業者の職員等も含むものとされており、さらには、その配偶者など「対象者の身近にあって対象者の行動に影響を与え得る者」も調査の対象とすることが考えられており、調査対象は国民の広範囲に及ぶ可能性がある

    このように、秘密保全法制は、国家が、多くの国民のプライバシーや思想・信条に関する情報を広範囲に調査・取得することを可能とするものであり、国民のプライバシーや思想・信条の自由を侵害するおそれが極めて高い。

  6. さらに、秘密保全法制が予定する秘密漏えい行為等に関する罪に問われた者の刑事裁判においては、「特別秘密」が実質秘に当たるかの審理を公開の法廷で行う場合には原則として「特別秘密」を公開する必要が生じる。しかし、反対に「特別秘密」の内容を公開せずに裁判ができるとすれば、公開の法廷で裁判を受ける権利を保障した憲法37条1項、82条の趣旨を没却するとともに、被告人の防御権を害し公平な裁判を受ける権利を侵害するおそれがあるという矛盾が生じる。この点、報告書では、この矛盾点をいかに解消するかの記述はなされていないため、十分な検討もないまま裁判を受ける権利を侵害する内容の立法がなされるおそれもある。

  7. よって、当会は、このように憲法上の重大な問題を有する秘密保全法の制定に強く反対する。

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