奈良弁護士会

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会長声明

特定秘密の保護に関する法律の制定に反対する会長声明

2013/11/18

奈良弁護士会
会長 以呂免  義雄

 

1.意見の趣旨

本年11月7日、特定秘密の保護に関する法律案(以下、「本件法案」という。)が国会審議入りした。政府は、今国会での成立に強い意欲を示している。

しかし、当会は、本件法案には、以下のとおり多くの重大な問題があると考え本件法案の成立に反対する。

 

2.「特定秘密」の範囲が広範かつ不明確で行政の恣意的運用の危険が高い

本件法案は、その対象となる「特定秘密」を、(1)防衛に関する事項、(2)外交に関する事項、(3)特定有害活動の防止に関する事項、(4)テロリズムの防止に関する事項として、その内容を別表に列挙する。

しかし、別表の内容は、広範かつ不明確である。しかも「特定秘密」の該当性は、行政機関の長が判断し、これに対する第三者機関のチェックも不十分なことから、行政機関の恣意的運用の危険を否定できない。例えば、国民の関心が最も高く、公開性が求められる原子力発電に関する情報について、現在、政府は、原発事故は「特定秘密」ではなく、原発警備に関する事項は「特定秘密」指定の余地があると答弁している。しかし、この二つを明確に区別できるか疑問であるし、仮に時の政府により、原子力発電に関する情報がテロリズムの防止に関する事項として「特定秘密」に指定されれば、事故が起きた場合の対応や事後の検証の障害になりかねない。このようなことがまかり通れば、本来国民が知るべき多くの情報が国民の目から隠されてしまう危険がある。

 

3.罪刑法定主義、裁判を受ける権利、裁判の公開原則の趣旨に反する

また、本件法案は、文書に特定秘密の表示をすることで、「特定秘密」情報か否かを区別する。しかし、文書以外の情報には特定秘密の表示はされず、また、特定秘密情報を取扱う業務に従事する者以外の者に、この区別は分からない。つまり、国民にとっては、「何が秘密か」自体が「秘密」という状況が生まれる。

さらに、本件法案は、故意の漏えい行為だけでなく、過失による漏えい行為のほか、漏えい行為の未遂や共謀、教唆及び扇動、特定秘密の取得行為とその共謀、教唆、扇動についても処罰する。

とすれば、国民が、何が「特定秘密」にあたるか、何が罰せられるべき行為かが分からないまま捜査や処罰の対象になるおそれがあり、近代司法の大原則である罪刑法定主義(憲法31条参照)の趣旨に反する。

また、国民が、何が「特定秘密」かが明らかにされないまま刑事裁判を受けることになれば、国民の裁判を受ける権利(憲法32条、37条1項)を侵害し、裁判の公開の原則(憲法82条1項)の趣旨に反する。

 

4.適性評価制度によるプライバシーの侵害は重大である

本件法案は適性評価制度の導入・整備を図っている。この適性評価制度とは、特定秘密を取り扱う業務に従事する者が、「特定秘密」を漏らすおそれがあるかどうかという観点から、この者に関する情報を調査し、これをもとに適性評価するという制度である。

しかし、その調査事項には、精神疾患、飲酒の節度、信用状態等、通常他人に知られたくない個人情報が多く含まれている。また、「家族」の個人情報も調査事項の対象とされているが、広範に過ぎる。

このような適性評価制度は、プライバシーの侵害であり(憲法13条参照)、その弊害は重大である。

 

5.国民の知る権利、取材の自由を明文化しても危険性は解消されない

本件法案21条1項は、拡張解釈による国民の基本的人権の侵害を戒め、「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」と規定し、2項で取材行為の正当業務性を規定している。

しかし、どこまでが拡張解釈なのか、何が「不当」な取材なのかの判断は、結局、行政機関の運用次第であり、萎縮効果や自己規制あるいは過剰反応により、取材の自由ひいては国民の知る権利(憲法21条1項参照)が侵害される危険がある。そしてこの危険は上記訓示規定を置いただけでは解消されない。

 

6.議院内閣制の仕組みを否定し国政調査権を著しく制限する

本件法案は、行政機関の長が、「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたときに限り」、「特定秘密」を国会の各議院や委員会に提供できると規定する。これは、国会が行政をコントロールする議院内閣制の仕組み(憲法66条3項参照)を否定するものである。

また、「特定秘密」の提供を受けた国会議員に対して刑事法上の守秘義務を課し、故意または過失により「特定秘密」を漏えいした場合には処罰され、国会議員に対して「特定秘密」の内容を明らかにするよう働きかけた第三者は、漏えい罪の共謀、教唆、扇動罪として処罰される。これでは、秘密の提供を受けた議員が所属政党に持ち帰ってこれを検討したり、政策秘書や研究者にこれを知らせて相談することも処罰の対象となる可能性があり、ひいては議院の国政調査権(憲法62条)を著しく制限する。

7.結 論

当会は、以上に述べた理由から本件法案の成立に強く反対する。

 

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