奈良弁護士会

0742-22-2035
会長声明

貸金業の規制緩和に反対する会長声明

2014/09/08

奈良弁護士会
会長 中西 達也

 

  1.  先般,自由民主党が「小口金融市場に関する小委員会」において検討している貸金業法の再改正案の概要に関する報道があった。
     報道によれば,この再改正案は,一定の条件を満たす貸金業者を「認可貸金業者」と認定し,この「認可貸金業者」に限って,上限金利を貸付金額に応じて年利15~20%に制限している利息制限法の適用から外し,改正前の年利29.2%とすることや,同「認可貸金業者」については,個人の総借入額を年収の3分の1以内に制限する総量規制の対象からも除外することを定めようとするもののようである。
     しかし,この再改正案は,先の法改正(平成18年12月改正,平成22年6月完全施行)に至る経緯や,その後の経過に照らせば,到底妥当なものとはいえない。

  2.  平成18年の貸金業法改正は,年々深刻化する多重債務問題の解決のためには上限金利の引下げや総量規制の導入が必須であるとの判断に基づき,与野党の全会一致で成立したものである。
     実際,平成18年の時点で,貸金業者5社以上と取引のある「多重債務者」(旧定義)の数は約230万人にも上り,翌平成19年の時点でも,貸金業者5社以上に借入残高がある「多重債務者」(新定義)の数は,約177万人にも上っていた。
     また,個人の自己破産申立件数は,平成8年には年間約5万6000件であったものが,平成10年には年間10万件を超え,その後も年々増加の一途をたどり,ピークである平成15年には年間24万件を超え,平成18年の時点でも年間16万件を超える状況であった。
     更に,多重債務者の中には,借金を苦に自殺する者も少なくなく,例えば平成18年の警察庁統計によれば,自殺者のうち,遺書等に借金等経済的事情を苦として自殺する旨が明記されていたケースだけでも,年間3000件を超えていた(なお,自殺者全体のうち約3分の2は遺書等が遺されていないケースであるが,上の数字はこれを含んでいない)。
     平成18年の改正は,このような状況を受け,行われるべくして行われたものである。

  3.  平成18年の法改正後,内閣には多重債務者対策本部が設置され,財務省・金融庁や国民生活センター、全国の自治体、法テラス、弁護士会、司法書士会等の関係各機関と多数の民間団体が協力し,官民一体となって「多重債務問題改善プログラム」が推進された。
     その結果,上記「多重債務者」(新定義)の数は,平成26年4月時点で約18万人まで減少し,自己破産の申立件数も,平成25年時点で,年間約8万人にまで減少した。
     しかし,逆に言えば,平成22年6月の改正法完全施行から約4年が経過した現在に至っても,なお,貸金業者5社以上に借入残高がある多重債務者が全国に多数存在し,その中には自己破産の申立てに至るケースも年間数万件という規模で含まれているのである。
     また,上記「多重債務者」に関する統計は,あくまでも,貸金業者5社以上と取引のある債務者に限ってのものであり,貸金業者4社に対して多額の借入残高がある債務者であっても,この統計には含まれない。
     このような事情に照らせば,我が国の多重債務問題は,いまだ予断を許さない状況にあるものといわざるを得ない。

  4.  報道によれば,今回の貸金業の規制緩和に向けた動きは,銀行融資を受けにくい中小零細企業や個人事業主が一時的な資金を消費者金融から借りにくくなっているとの判断に基づくものとのことである。
     しかし,平成18年改正に先立つ多重債務問題の中には,まさに,銀行融資を受けられなくなった中小零細企業経営者や個人事業主が事業資金や生活資金を調達するため消費者金融から高金利での借入を行い,その元利金の支払いに窮して更に複数の消費者金融から借入を重ね,最終的に破綻するケースが相当多数含まれていた。
     このような中小零細企業や個人事業主にとって,本来必要とされるのは,低金利での融資や,収益性を改善するための総合的な経営支援であって,高金利での貸付ではない。

  5.  更に,再改正案は,認可業者の要件として,(1)貸金業務取扱主任者が営業所・事業所ごとに一定割合以上いる(2)研修体制の整備(3)過去3年間に業務停止命令を受けていない(4)過去5年間に認可を取り消されていない(5)純資産額が一定以上(6)返済能力調査やカウンセリングなどの体制整備などの条件を定めているとのことである。
     しかし,我が国における多重債務問題の多くは,まさしく,これらの条件に合致するような大手貸金業者が,全国に多数の顧客を抱え,年利15~20%を超える高金利で貸付を行ったことに起因するものにほかならない。
     これらの大手貸金業者は,業者自身の説明によれば,平成18年の法改正以前においても,社内・業界内で自主規制のルールを定め,コンプライアンスの体制を整えていたのだという。
     ところが,現実には,前述のような多重債務問題が発生し,年間10万~20万件という規模で自己破産者が続出する実情があったのであり,たとえ貸金業者の経営の健全性が担保されたからといって,そのことが借主の多重債務化の防止に繋がるものでないことは明らかである。
     多重債務問題の本質は,要するに,現代の消費者や中小零細企業、個人事業主等の経済実態に照らして,年利15~20%を超える利率の設定が,そもそも高すぎるという点にある。

  6.  加えて,平成18年改正(平成22年6月18日施行)以前の貸金業法下においては,たとえ貸金業者が年利15~20%を超える利息を収受していたとしても,同法43条1項及び3項(いわゆる「みなし弁済」規定)の適用がない場合には,制限超過利息を元本に充当する扱いを取ることによって借主の債務を圧縮することが可能であった。
     また,借主が,上記充当計算の結果元本の残高が0となる時点を超えて弁済を続け,いわゆる「過払金」が発生していた場合には,これを回収して他の債務の弁済に充てることにより,破産を回避し得るケースも多かった。
     しかし,今回報道されている自由民主党の再改正案は,認可を受けた貸金業者については,元本充当の余地なく確定的に上限金利(年利)29.2%の利息を収受できるものとされているようである。
     すなわち,この再改正案は,債務の圧縮の余地がない分,平成18年改正前の規定と比較しても,より借主への負担が大きい内容となっているのであり,仮にこの再改正案が制定・施行されれば,かつてのもの以上に深刻な多重債務問題が生じるおそれが高い。

  7.  このように,今回報道された貸金業法の再改正案は,貸金業規制を平成18年改正以前にもまして緩和することにより,多重債務問題を再燃させ,ようやく落ち着きを取り戻しつつある我が国の消費者や中小零細企業、個人事業主等の経済に著しい打撃を与えかねないものである。
     よって,当会は,これに対し,断固として反対する。

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