-
再審法改正に関しては、2025年(令和7年)6月18日、衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「議員立法案」という。)が提出され、現在、継続審議となっているが、この間、法務大臣の諮問を受けて、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下「再審部会」という。)でも審議が進められている。
-
ところで、2025年(令和7年)12月16日に開催された再審部会第13回会議では、「今後の議論のための検討資料」(以下「検討資料」という。)が示された。これは、法務省事務当局が作成した資料であるが、再審部会での審議状況を忠実に整理・反映したものとはいえず、しかも再審部会の委員・幹事への事前の提示や意見聴取を経ることもなく、「意見の集約に向けたたたき台(案)」との標題で先に報道機関に配布され、記者に対する説明も行われていた。
このように、検討資料は、議事運営を補佐すべき立場に過ぎない法務省事務当局が、意見集約の方向性を示唆する内容で論点の抽出・整理を行った上で、その内容を再審部会の委員・幹事に先んじて報道機関に公表することによって、これを既成事実化し、それに沿った方向に再審部会の審議を誘導しようとするものと言わざるを得ない。また、検討資料の内容を見ても、裁判所が再審請求書やその添付資料等を調査し、再審の請求が理由のないものであると認めるときは、証拠開示や事実の取調べをすることなく、直ちに再審請求を棄却することを義務づける案を明記するなど、えん罪被害者の速やかな救済を指向するものとは言い難く、議員立法案の水準にも達していない不十分なものである。
再審部会を含め、法制審議会の刑事法関連部会の事務局は、法務省刑事局が務めているが、その要職は検察官が占めている。そのため、再審部会については、かねてよりその公正性、中立性に疑問が呈されており、再審法改正を再審部会の審議に委ねていたのでは、その内容が骨抜きにされるとの指摘もなされていたが、今回の出来事は、まさにそのおそれが現実化したものといえる。 -
そもそも、再審法改正の目的は、静岡4人強盗殺人・放火事件(いわゆる袴田事件)や福井女子中学生殺人事件などの具体的なえん罪事件を通じて、えん罪を晴らすのに多大な労力と膨大な時間を要するという実情や、その原因が再審法の不備にあることが明らかになったことから、その不備を是正することにある。
それにもかかわらず、再審部会での審議状況を見ると、再審における証拠開示の範囲を限定し、再審開始決定に対する検察官の不服申立て(検察官抗告)の禁止にも踏み込まないなどといった再審法改正の目的に逆行するような審議が行われている。
このような再審部会での審議状況に対する深い憂慮から、刑事法研究者4名の連名による「再審法の改正に関する意見」や刑事法研究者135名による「再審法改正議論のあり方に関する刑事法研究者の声明」、さらには元裁判官63名による「再審法改正に関する元裁判官の共同声明」が相次いで公表され、再審部会での審議内容について、えん罪被害者の速やかな救済という再審法改正の目的に反するものであると厳しく批判している。
また、朝日新聞、産経新聞、日本経済新聞等の全国の報道機関でも、えん罪被害者の救済が後退しかねない、法改正の原点が忘れられているなどと再審部会の審議内容に疑問を呈する多くの意見が述べられており、再審部会での審議状況は再審法改正を求める国民の意思から大きく乖離している。
加えて、前述のとおり、法務省事務当局による審議運営は、その公正性、中立性への疑問を払拭できず、このような状況に照らせば、再審部会は、もはやえん罪被害者の速やかな救済を図るための再審法改正を審議する場とはなっていないと言わざるを得ない。
立法の権限者であり責任者でもある国会は(憲法41条)、再審部会の審議状況に惑わされることなく、断固たる決意と覚悟をもって、議員立法案をすみやかに審議、可決すべきである。 -
よって、当会は、再審部会に対し、再審部会の審議の進め方に深刻な懸念を表明するとともに、国会に対し、えん罪被害者の速やかな救済のために、現在、衆議院に提出されている「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」を速やかに審議、可決するよう強く求める。
2026年(令和8年)1月14日
奈良弁護士会
会長 中西 伸之
奈良弁護士会










