奈良弁護士会

出資法の上限金利の引き下げ等を求める意見書


意見の趣旨

当会は、貸金業界を中心とした「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(以下「出資法」という)第5条の上限金利の引き上げを求める意見に断固として反対し、深刻化している多重債務問題の解決のために、以下の法律改正を早急に行うことを求める。

1  出資法第5条第2項の上限金利を、利息については、利息制限法第1条第1項に定める上限金利まで、債務の不履行による賠償額の予定については、同法第4条第1項に定める上限金利まで引き下げること

2  貸金業の規制等に関する法律(以下、「貸金業規制法」という)第43条(いわゆる「みなし弁済規定」)を廃止すること

意見の理由

1 はじめに

   1999年(平成11年)12月の臨時国会において、出資法第5条第2項の上限金利が、年29.2%に引き下げられ、その後、2003年(平成15年)7月、いわゆるヤミ金融対策法(貸金業規制法及び出資法の一部改正法)制定の際、出資法の附則により、出資法第5条第2項については、この法律の施行後3年を目途として、経済、金融情勢及び貸金業者の業務の実態等を勘案して必要な見直しを行うものとされ、その時期は2007年(平成19年)1月とされている。

さらに、昨今、かかる出資法第5条第2項の見直しに向け、金融庁の貸金業制度等に関する懇談会等では、いわゆるグレーゾーンを撤廃すべきとの議論が盛んになっているが、その中には利息制限法の上限金利を引き上げるべきとの意見も出されており、出資法の上限金利見直しがかえって民事上有効な金利の引き上げにつながるおそれすらある状況となっている。

そこで、当会としては、出資法第5条第2項の見直しが、消費者保護という出資法の本来の趣旨に立ち返り行われ、出資法上限金利が少なくとも現在の利息制限法の上限金利にまで引き下げられること及びみなし弁済規定の廃止が行われることを求め本意見を述べる次第である。

2 現在の経済、金融情勢

   現在、日本の公定歩合は年0.10%、銀行の普通預金の金利に至っては0.001%と超低金利が続いている。
ところで、出資法の上限金利が年29.2%に引き下げられた1999年(平成11年)ころの公定歩合は年0.50%程度で推移していたのであり、出資法の上限金利は当時でも公定歩合の58.4倍もの高水準であった。

そして、現在では上記のような経済、金融情勢の下、出資法の上限金利は公定歩合の292倍にもなり、いっそう現在の経済、金融情勢との乖離が進んでいる状況にある。
このような現在の経済、金融情勢からすれば、出資法に定める上限金利は非常に高利といえるのであり、かかる上限金利のさらなる引き下げが求められる。

3 貸金業者の業務の実態

   上記のような経済、金融情勢の下、貸金業者の多くは年2%前後の非常に低いコストで資金を調達し、貸付を行っている。

しかし、他方で法は、利息制限法第1条第1項では利息の最高限を年15~20%と定め、出資法第5条第2項では、原則として年109.5%、貸金業者については年29.2%という非常に高利な利率を超える貸付けについてのみ罰則を設けているにすぎず、このため、利息制限法と出資法との間には、民事上無効だが刑事罰の対象とならないといういわゆる「グレーゾーン」が存在し、多くの貸金業者が、利息制限法の上限金利を上回る年25%~29%という高利で貸付を行うという現状を作りだしている。

そして、このように高利で貸付けることで貸し倒れリスクを十分に見込めるため、多くの貸金業者は十分に信用調査を行うこともなく貸し付けを増やしており、現に貸金業界の消費者向け貸付残高は1999年(平成11年)3月期に約16兆円であったものが、2004年(平成16年)3月期には約20兆円にまで増加している。

このように、貸金業者は非常に低いコストで資金を調達できる反面、出資法が高すぎる上限金利を定めグレーゾーンを認めているために非常に高利での貸付を行っており、このことが、貸金業者が「貸せば貸すほど利益が上がる」構造を作りだしているのである。そして、かかる現状がいわゆる「過剰与信」を誘発し、多くの多重債務者を生み出す要因となってきたのである。
以上のように、過剰与信を行う貸金業者が増加し、その業務実態が不適正なものとなっているという現実からも、出資法に定める上限金利の引き下げが必要といえる。

4 多重債務者をめぐる社会状況

   現在、自己破産申立件数はやや減少傾向にあるものの、2002年(平成14年)以降3年連続で年間20万件を超え、依然として高い水準を示している。また、1998年(平成10年)以来年間3万人を超えている自殺者のうち、20~25%が経済的理由によるものとされており、多重債務を原因として多数の命が失われている。さらに、近年債務の返済に窮した多重債務者が引き起こす犯罪も多発し、深刻な社会問題ともなっている。

このように、多重債務者をめぐる社会状況は依然として改善されておらず、上記のように、出資法の定める上限金利が高すぎることが多くの多重債務者を生み出していることからすれば、現在、上限金利の引き下げは急務の社会的課題となっているのであり、まして上限金利を引き上げることを正当化すべき社会状況は全く認められない。

5 利息制限法及び出資法の趣旨が消費者保護にあること

   ところで、利息制限法および出資法の各規定の趣旨は消費者保護にあり、貸金業者が、構造上比較的弱い立場にある消費者に高利を押しつけてきたという経緯を背景に、そのような業者から消費者を保護するために、法は上限金利を設けたのである。

そして、利息制限法の上限金利自体、上記の経済、金融情勢からすれば高利と言わざるを得ないのであるが、そのような制限をさらに超える民事上無効な高金利を貪る業者を、消費者の犠牲の下放置しなければならない理由は全くない。

消費者保護という観点からは、利息制限法に違反する高金利での貸付を行う貸金業者を直ちに刑事罰の対象とできるよう、出資法の上限金利を利息制限法の上限金利にまで引き下げることが是非とも必要なのである。

6 出資法の上限金利引き下げとヤミ金融問題

   出資法の上限金利の引き下げに対しては、貸金業界等からいわゆる「ヤミ金融」(都道府県への登録の有無にかかわらず出資法に定める上限金利をも大幅に超過する利息による貸付を行う金融業者のこと。以下、単に「ヤミ金融」という)の増大につながるとの反対論があるが、この両者には因果関係はなく、このような見解に理由はない。

すなわち、ヤミ金融が増加するとの反対論は(A)近年多発するヤミ金融被害の原因は、出資法の上限金利の引き下げにより貸金業者が選別融資を行ったことから、リスクある借り手が借入れできなくなり、やむなくヤミ金融からの借入れを行うようになったという主張と、(B)出資法の上限金利が引き下げられると、収入の減った貸金業者がヤミ金融になるとの主張がある。
しかし、(A)の主張については、出資法の上限金利が40.004%から29.2%に引き下げられた後も、貸金業者の消費者向貸付残高は伸びているという客観的状況があり、この事実は(A)の主張が客観的根拠に欠けていることを示している。

また、(B)の主張についてであるが、新聞報道等によれば、近年増大しているヤミ金融業者の多くは、暴力団関係者であるとされていること、上限金利を29.2%に引き下げる改正出資法が施行された2000年6月以前の1999年7月には、既に弁護士らで組織する団体が合計245のヤミ金融業者について警視庁に事実上の刑事告発を行っているなど、ヤミ金融業者の増加が既に問題となっていたこと等の事実に照らせば、(B)の主張は全く客観的な根拠を欠くものといえる。

ヤミ金融の問題に対しては、ヤミ金融に対する規制を強化することで対処すべきであり、反対論の主張は、ヤミ金融被害者のほとんどが、貸金業者に対する高金利の返済に行き詰まり、やむなくヤミ金融に手を出すに至っているという現状を無視し、高金利こそがヤミ金融を生み出しているという現実を見誤らせるものに他ならないのである。

7 上限金利規制の撤廃により金融サービスが向上するとの主張に対して

  (1)  さらに貸金業界等からは、出資法の上限金利規制の撤廃ないし大幅な緩和を行うことにより、貸し倒れリスクの高い借り手に対しても、そのリスクに応じた金利を設定しながら貸付を行うことによりその資金需要に応えることが可能となり、他方、高リスクな借り手のコストを高金利での貸付によって吸収できることにより、リスクの低い借り手に対してはそのリスクの低さに応じた低金利での貸付が可能となり、結果として金融サービスが向上するとの主張も行われている。

  (2)  しかし、かかる主張は、貸付時に借り手のリスクを適切に判断するための適正な与信審査が行われること、すなわち借り手の収入、借り入れ状況等からその返済能力を厳密に審査し、借り手の返済能力を考慮した適正な金利が設定されることを前提にすべきであるが、これまで多くの貸金業者は個々の借り手ごとに適正な与信審査を行うコストを省き、ほぼ一律に出資法の上限金利に近い高利での貸付を行ってきたという実態があり、このような貸金業者が出資法の上限金利規制を撤廃ないし緩和することで適正な与信審査を行うようになるとは考えにくい。

むしろこのような現状からすれば、貸金業者の多くは、さらに大きな利潤を追求し、また与信審査コストを削減するために、より高利での貸付を行うようになると考えられるのであり、リスクの低い借り手に対して適正な与信審査が行われ金利が引き下げられる保証はどこにもない。

また、リスクの高い借り手は、より与信審査の甘い高利の貸金業者から借りざるを得ない状況になると考えられるが、これまで適正な与信審査を行ってこなかった貸金業者が、借り手の返済能力の範囲内でそのリスクに応じた金利を設定し、返済可能な範囲でのみ貸付を行うようになるとは考えられない。

そして、自身の返済能力を超えた高利での借り入れを行った債務者は、一時的には金銭を借り入れることで急場をしのげることはあっても、近い将来、高利により著しく膨れあがる債務の返済のため経済的破綻に陥ることは必至である。

実際に韓国では、1998年(平成10年)1月、利子制限法の撤廃により金利が自由化されたが、その結果利子率が暴騰し、年数百%の高利を取る貸金業者が横行したことで、信用不良者と呼ばれる債務の延滞者が激増し大きな社会問題となった。そして、そのような現状に対し、市民団体、政党、弁護士、法学教授らをはじめとする各界から利子制限法の復活を求める声が強まり、議論の末、2002年(平成14年)10月、一部金利規制が復活したという現実がある。このように他国での金利自由化によりもたらされた結末を見ても、上限金利規制撤廃により当然に金融サービスが向上するわけではなく、むしろ多くの多重債務者を生み出すという悲惨な結果がもたらされることは明らかなのである。

  (3)  結局、前述の貸金業界等の主張は、自らが適正な与信審査を行ってこなかったという実情を看過し、市場原理の名の下に、すでに多額の債務を負うなどして返済 が困難となった者に対してもその返済能力を超える高利での貸付を行うことを許容するものであり、消費者を保護するという視点に欠けた現実を無視した理論と言わざるを得ず、なんら合理性が認められないものである。

8 みなし弁済規定の廃止について

   以上述べたとおり、出資法上限金利の引き下げこそが重要であり、出資法に定める上限金利が利息制限法に定める上限まで引き下げられれば、みなし弁済規定は不要のものとなる。

また、中小の貸金業者はおろか業界大手の貸金業者ですら、貸金業規制法第43条規定の要件を厳密に履践しないまま、消費者が十分な法的知識を有していないことを奇貨として、利息制限法に違反して、本来支払う必要のない利息を搾り取っている。そのため、消費者保護という出資法の趣旨に大きく反する状況となっている。

そして、このような現状の下、2006年(平成18年)1月13日及び19日、最高裁判所は、利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払いを遅滞したときに当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払いには、貸金業規制法第43条1項にいう「任意性」が認められないと判断し、みなし弁済における任意性の要件について厳格に解釈する立場を明らかにしたが、かかる判断は事実上みなし弁済規定を死文化するほどのものといえ、司法府が、利息制限法を超える高利の受領は容易に認められるべきでないとの立場を明確に示したものといえる。

そもそも貸金業規制法は、貸金業者に業務規制等を課す代償(いわゆる「アメ」)として、消費者保護という同法の目的に反するみなし弁済規定を導入したといえるが、前述のように、みなし弁済規定には必要性がない上、消費者保護という法の趣旨に立ち返った場合およそ合理性が認められないこと、このままみなし弁済規定を存置することは、上記判例の趣旨に反することが明らかであることからすれば、もはや貸金業者に「アメ」としてのみなし弁済規定を認める理由は全く存しない。
したがって、みなし弁済規定も廃止するべきである。

9 結論

   以上のように、現在の経済、金融情勢、貸金業者の業務の実態及び現在の社会状況に照らしてみても出資法の定める上限金利の引き上げを正当化する要因はなく、むしろこれを直ちに引き下げるべきことは明らかである。

また、出資法の上限金利引き下げによりヤミ金融が増加したとの反対論及び出資法の上限金利規制の撤廃、引き上げが金融サービスの向上につながるとの主張には何ら合理性は認められないのであり、消費者保護の観点からも、出資法に定める上限金利は引き下げられるべきである。

そこで、当会としては、上記意見の趣旨1に述べるとおり、出資法第5条第2項の定める上限金利を、利息制限法の定める上限金利にまで引き下げることを求める。

また、みなし弁済規定についても、その必要性、合理性が認められないこと、前述のように司法府がみなし弁済規定を事実上死文化する判断を行っていることからすれば、上記意見の趣旨2に述べるとおり、あわせて貸金業規制法第43条の廃止を求めるものである。

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