奈良弁護士会

「成年後見制度利用支援事業」の事業化についての要望書

奈良県知事柿本善也 殿
奈良県下全市町村長 殿
奈良弁護士会
会長 相良 博美

 

第1 要望の趣旨

  1. 平成13年度以降の奈良県及び各市町村予算において、「成年後見制度利用支援事業」を予算化し、同事業の実施体制を早急に整備していただきたい。
  2. 各市町村は、事業内容として、次の事業を検討していただきたい。
    1. 市町村長が成年後見・保佐・補助(以下「成年後見等」という)を申し立てるに当たっての、登記手数料・精神鑑定料等の諸経費の助成、及び成年後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」という)の報酬の一部助成
    2. 成年後見等事務を廉価で実施する団体の紹介
    3. 成年後見制度の利用促進のための広報・普及活動及び相談援助事業
  3. 当該事業の実施に当たっては、その専門性に鑑みて、次の事項につき、当会への事業委託を検討いただきたい。
    1. 成年後見等申立に関する事務
    2. 後見人等候補者の推薦
    3. 成年後見制度説明会への講師派遣、専門相談への相談員派遣

第2 要望の理由

  1. 既に周知の通り、平成12年4月1日から、成年後見制度等に関する改正民法と新法が施行されました。従来の禁治産・準禁治産制度と比べ、新制度では、より個人のプライバシーや自己決定権を尊重することが可能となり、痴呆性高齢者などの判断能力が不十分な者(以下「痴呆性高齢者等」という)が、最後まで自分らしい生活を送る権利を保障するのに必要な制度となっています。そしてこの制度を、痴呆性高齢者等にとってより利用しやすい制度とするために、民法の改正に伴い、老人福祉法32条等において、「その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」には、従来の申立権者(本人・配偶者・4親等内の親族・未成年後見人等・検察官)に加え、市町村長に痴呆性高齢者等に関する成年後見等の開始審判の申立権を付与する旨の規定が新設されています。
    この点、特に独居老人などのケースにおいて、成年後見等を申し立てる必要が生じた場合に、たとえ4親等内の親族が実在していたとしても連絡が絶えていることも多く(だからこそ成年後見等の必要性が生じているともいえます)、親族に対し、申立費用や鑑定費用の捻出はもとより、申立事務の委任すら期待できない状況にあることがままあること、また公益の代表者である検察官が申立権を行使することはまれであり、市町村長の方が民生委員・福祉関係者から福祉事務所・保健所などに寄せられた情報に基づいて適切に申立をすることができることなどの事情をあわせ考えますと、同法の規定は、成年後見等の制度の実効性を図るために非常に重要なものとなっているというべきです。
  2. そこで、今般、厚生省老人保健福祉局(現厚生労働省老健局)が、市町村が行う成年後見制度の利用を支援するため、「成年後見制度利用支援事業」を平成13年度の介護予防・生活支援事業の一つとして予算要求中であることは、注目すべき事柄です。
    これによると、

    1. 成年後見制度利用促進のための広報・普及活動の実施
      1. 在宅介護支援センター、居宅介護支援事業者を通じた、成年後見制度のわかりやすいパンフレットの作成・配布、高齢者やその家族に対する説明会の開催等
      2. 後見事務等を廉価で実施する団体等の紹介等
    2. 成年後見制度の利用にかかる経費に対する助成
      1. 対象者
        介護保健サービスの利用に当たって、身よりのない重度の痴呆性高齢者等であって、市町村が老人福祉法32条の規定に基づき、民法第7条(後見開始の審判)、民法第11条(保佐開始の審判)、第14条第1項(補助開始の審判)等の審判の請求を行うことが必要と認められるもののうち、後見人等の報酬等必要となる経費の一部について、助成を受けなければ成年後見制度の利用が困難と認められるもの
      2. 助成対象経費
        成年後見制度の申立に要する経費(登記手数料、鑑定費用等)及び後見人等の報酬の一部
        などの事業を市町村が実施するにつき、国が2分の1、県が4分の1の負担割合で(従って市町村は4分の1の負担で実施が可能となる)補助金をつけることになっています。
        そしてこの予算要求は、平成12年末の大蔵原案の内示を通って、政府の予算原案に盛り込まれ、その結果、平成13年度の介護予防・生活支援事業費は、平成12年度の367億円を超える、500億円が計上されている現状にあるのです。
  3. 介護保険の導入により、「措置から契約へ」の行政サービスの変革に伴い、単独では契約関係を締結・解消できない痴呆性高齢者等にとって、財産管理や介護サービスの利用の面で、成年後見等制度の利用の必要性は高く、今後高齢化が進むにつれますます高まっていくことが予想されます。
    しかしながら、未だ一般市民の間で、この成年後見等制度は周知されておらず、また適切な申立人が見つからない、申立費用が用意できない等の事情から、十分な制度の利用がはかれていない現状にあります。この点全国では既に、市町村長申立にかかる成年後見制度の積極的活用がなされている地域がある(島根県では、簸川郡斐川町、平田市で既に成年後見審判開始決定がなされているのに続き、出雲市でも申立を予定しています)ことも是非参考にした上、老人福祉法32条の「その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」を、本人に配偶者や4親等内の親族がいない場合以外に、これらの親族と音信不通の状況にある等の事情がある場合にも拡大していき、奈良県下の全市町村で「成年後見制度利用援助事業」を平成13年度から事業化することで、成年後見等制度をもっとも必要とする者(身よりのない痴呆性老人等や経済的に経費の負担の困難な痴呆性老人等)に、制度利用の道を開いていくべきであります。
  4. なお、当会においては、前記改正民法と新法の施行にあわせ、会内に高齢者障害者支援センターを設置して、高齢者障害者の人権を保護するべく活動を開始し、各種研修、成年後見人等候補者の推薦、専門相談の実施等の活動を行っており、奈良県下の市町村で「成年後見制度利用援助事業」が事業化された際には、その円滑な実施のために、最大限これに協力する所存であることも申し添えます。

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