奈良弁護士会

刑事再審制度の改正に関する総会決議

第1 決議の趣旨
 刑事再審制度について早急に以下の法改正を実現すべきである。

 1 再審請求審の事実調べについてデュープロセスに基づく当事者主義を基調とした手続規定を創設すること
 2 再審請求の前後を問わず検察の手持ち証拠の開示制度を創設すること
 3 再審開始決定に対する検察官の不服申立制度を廃止すること

第2 決議の理由
 2023年(令和5年)3月13日、袴田ひで子氏請求による袴田巌氏の再審請求事件(袴田事件)で東京高等裁判所は再審開始を認める決定を行い、その後、検察は特別抗告を行わず開始決定が確定した。本事件は2014年(平成26年)静岡地方裁判所で再審開始決定がなされた後も上級審の判断が二転三転して9年経過してようやく再審が開始されることとなった。
 この間、袴田事件を含む多くの再審請求事件の審理を通じて現行の再審請求制度には、以下のような重大な欠陥があることが明らかになった。
 第1は、再審請求の事実調べが裁判所の職権に委ねられていて、係属した裁判所において審理の運営が区々になっている点である。デュープロセスを重視して当事者主義的な運用を行う裁判体がある一方で、弁護人に十分な手続関与の機会を認めないまま棄却決定をする裁判体もあり、このような意味での再審格差が問題となっている。再審格差が生じる原因は、再審請求における事実調べについて職権主義による規定がわずかに一箇条あるだけで、すべて裁判所の裁量に委ねられているところにある。再審請求の審理、とりわけ事実調べについてデュープロセスの理念による手続規定を整備することは重要な課題である。
 第2は、再審請求に関して検察の手持ち証拠の証拠開示制度がないことである。検察が開示した証拠が有力な新証拠となって再審開始につながった事件は多い。最近の事件だけでも袴田事件のほか、布川事件、日野町事件、松橋事件などがある。確定判決の誤りを正し冤罪を救済するためには検察の証拠開示が必要不可欠であるところ、現行法には規定がなく、再審請求後の裁判所の裁量による検察に対する勧告により開示がなされるにとどまっている。また、再審請求の前段階では検察が任意に応じない限り開示はなされない。これでは冤罪の救済という再審制度の目的が達成できない。
 第3は、検察官の不服申立を認めているために再審請求審が長期化することである。
 現行の再審制度が専ら冤罪の救済のために存在していることは、憲法上の要請に基づくものであり、速やかな冤罪被害者の救済を図るべきである。他方、再審請求審は、再審を開始する事由があるかどうかを審理する手続であり、有罪無罪を審理する手続ではない。そうであるならば、再審開始決定に対する検察官の不服申立を認めなくとも、開始された再審において、検察官が有罪を維持するために必要と考える主張・立証を行えば足りる。
 上記袴田事件でも検察官の抗告により再審開始決定まで9年を経過していることからもわかるとおり、検察官の不服申立により再審請求審が長期化することは多く、袴田事件についていえばすでに高齢になっている袴田氏の状況を考えるとかかる審理の長期化は深刻な人権侵害というべきである。
 以上の理由で3点について再審請求制度の改正を求めるものである。

以上

2023年(令和5年)5月29日
奈 良 弁 護 士 会

戻る