奈良弁護士会

[人権救済申立事件]自治会が所轄範囲内の居住者に加入を認めなかった事例(勧 告)

  1.  申立人は,平成4年に奈良県A市B町所在の現住所に転居し,現在まで居住してきた。
  2.  B町自治会(以下,「相手方自治会」という)は,申立人を含むB町の住民であり,かつ同町内に土地を所有する者に対し,生活環境維持等の諸経費として「協議費」を徴収しており,自治会会計の収入の97%を占めてきた。その使途は,相手方自治会の各種行事のほか,相手方自治会が加入しているC区長分担金となっている。
    ところが,相手方自治会は,その会員資格を「昔からB町に住んでいて,D神社の氏子である世帯」に限定しており,現に構成員はB町に居住している世帯の2割強である。また相手方自治会は,申立人を含め,会員以外の住民に行事の案内や通知を出したことはなく,またA市の広報誌や回覧板を届けたこともなかった。
     
    申立人は,転居以降協議費を支払ってきたが,相手方自治会の構成員として認められることがないにもかかわらず協議費の支払を続けることに疑問を感じ,平成24年ころに協議費の支払を辞めた。
  3.  自治会は,市町村の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体であり,市町村はその機能に着目し,広報誌の配布や意見の集約の単位として利用し,担当部署を置いているなど密接な関係を有する。A市においても,広報誌や公民館だよりを自治会を通じて配布しており,事業や制度の周知を行いたいときには自治会の掲示板への掲載や回覧を依頼するなど,市からの情報提供や住民からの情報収集において一定の機能を果たしている,強い公共的性格を有する団体である。
     
    また,自治会は地方自治法260条の2の認可地縁団体となることができるが,認可地縁団体たる要件として同法第2条第3号がその区域に住所を有する全ての個人が構成員となることができることとしているほか,同条第7条において,その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない旨定めている。
     
    自治会の強い公共的性格は,認可地縁団体であるか否かにより異なるところはないのであるから,上記法文の存在は,自治会が区域内のすべての住民に開かれているべきであるとするものといえる。
  4.  このように,住民から事実上の自治会費である協議費を徴収しつつ,一部の住民を構成員として認めない相手方自治会の取り扱いは,公共的団体たる相手方自治会が同じ地域に居住する住民を差別する効果を有するものであり,またその理由も合理的なものは見出し難く人権侵害であるとして,相手方自治会に対し,B町内に住所を有する全ての個人に対し相手方自治会の構成員となる資格を認めるよう勧告したものである。

 
自治会が所轄範囲内の居住者に加入を認めなかった事例(勧告)


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