奈良弁護士会

集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し、撤回を求める会長声明

奈良弁護士会
会長 中西 達也

 

  1.   政府は、本年7月1日、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定を行った。これは、従前憲法上行使できないとされてきた集団的自衛権の行使等を、憲法9条改正のための国民投票も行わないまま、一政府の解釈によって認めようとするものである。当会は、本年4月16日、「解釈による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明」を公にしているが、事の重大性に鑑み、重ねて、上記閣議決定に対する見解を明らかにするものである。
  2.  当会は、上記声明において、(1)集団的自衛権の行使を認めるのであれば、少なくとも憲法96条に定められた手続により、国民投票によって国民の賛同を得なければならず、(2)立憲主義の観点からも、一内閣による「解釈」によって集団的自衛権の行使を認めることは到底容認できない旨を指摘した。

     これに対し、政府は、今回の閣議決定は合理的な解釈の限界をこえる解釈改憲ではなく、これまでの政府見解の基本的な論理の枠内における合理的なあてはめの結果であり、立憲主義に反するものではない、と反論している。

     しかし、今回の閣議決定は、歴代政権が一貫して行使できないとしてきた集団的自衛権の行使を認めている。さらに、首相答弁によれば、同決定により集団安全保障の武力行使も容認されるという。これは憲法9条を書き換えるに等しく、解釈改憲そのものである。

  3.  また、当会は、上記声明において、従前の憲法的解釈と異なるいかなる「限定」を加えようとも、武力行使に対する制限として実効性を欠くことを指摘した。

     これに対し、政府は、国の存立を全うし、国民を守るための自衛の措置としての武力の行使の「新3要件」が憲法上の明確な歯止めとなるうえ、実際の行使は国会承認を求めることとし国会によるチェックの仕組みを明確にすると反論している。

     しかし、従前の政府解釈にあって、恣意的な解釈を許さない明白な歯止めとなってきたのは、「我が国に対する急迫不正の侵害があること」という自衛権の発動要件と、「他国領土での行使は認められない」という地理的範囲の制限であった。

     これに対し、「新3要件」にあっては、従前の発動要件が、「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」と改められている。「我が国の存立が脅かされ」る「明白な危険」という概念が加えられることによって、発動要件は大きく緩和され、かつ政府の恣意的解釈を許すものとなっている。また、政府は、「新3要件」が満たされれば自衛権行使に地理的限定はないという。従って、要件そのものを見ても、これが明確な歯止めになるとは到底言えない。

     しかも、手続的に、「明白な危険」があるかどうかは、政府が全ての情報を総合して判断するとされている。だが、実質的な判断が行われるのは「国家安全保障会議」という密室においてであり、判断の基礎となる情報も「特定秘密」として公開されない可能性が高い。そのような状況では、たとえ国会承認を要件にするとしても、それに実効性があるとは解しがたい。

  4.  今回の閣議決定に至るまで、国会での十分な論議はなされておらず、その内容は、実質的に、与党間の協議のみで決められた。そのため、国民に対する十分な説明がなされておらず、重要な点について誤解を与える説明がなされている。

    (1) 例えば、首相は、今回の閣議決定によっても、「自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加することはない」と説明している。
     しかし、閣議決定は、従前、「他国の武力行使と一体化」するため憲法上許されないとされていた「戦闘地域」における補給・輸送などの支援活動を他国軍隊に対して行うと明言している。これらはいわゆる「兵站(へいたん)」活動であり、国際法上の「武力行使」にあたるとの理解が一般的である。それゆえ、この活動は相手国からの攻撃の対象となるし、首相は、それに対して反撃する場合がありうることを否定しない。その際、多くの犠牲者が出る可能性もある。それを説明せず、「戦闘」と「戦争」ないし「武力行使」と言う言葉を使い分ける上記の説明は、極めて不誠実なものと言わざるを得ない。

    (2) また、政府は、「なぜ、今、集団的自衛権を容認しなければならないのか」という問いに対して、「我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しさを増す中」「我が国を防衛するため」であると説明する。しかし、我が国が武力攻撃を受けた際に我が国が行使するのは個別的自衛権であって集団的自衛権ではない。また、我が国が集団的自衛権を容認せずとも日米安保条約によってアメリカが有事の際の共同対処義務を負っていることと、今回の閣議決定との関係は十分に説明されていない。さらに、政府は、集団的自衛権を認めることによる「抑止力」のみを強調するが、そのことによってかえって軍事的緊張が高まる危険性や、現実に集団的自衛権が行使された場合にいかなる事態が生じるかについて、十分な説明を国民に行っていない。

  5.  よって、当会は、今回の閣議決定に強く抗議し、その撤回を求めるとともに、今後の関係法律の改正が許されないことを明らかにし、反対するものである。

以上

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