奈良弁護士会

金利規制・総量規制の緩和に反対する会長声明

奈良弁護士会
会長 山﨑靖子

深刻な多重債務問題解決のため,改正貸金業法の目玉である出資法の上限金利の引下げ及び収入の3分の1以上の貸付の禁止(総量規制)等が2010年(平成22年)6月18日に完全施行されてから2年が経過した。

改正貸金業法が目指したとおり,5社以上の借入れを有する多重債務者が法改正時の約230万人から約44万人に,自己破産者が約17万人から約10万人に,多重債務による自殺者が1973人から998人に激減するなど,多重債務対策として大きな成果を上げている。また,一部で懸念されていたヤミ金融被害の増加も生じていない。当会も,無料相談を実施し,県内自治体の相談機関との連携を強化するなど,多重債務者の救済及びその生活再建やヤミ金融被害の救済等に向けて総力を挙げた活動を行ってきた。このように改正貸金業法は,極めて順調に施行されてきたと評価できる。

ところが,与野党の一部国会議員からは,正規の貸金業者から借りられない人がヤミ金から借入れをせざるを得ず,潜在的なヤミ金被害が広がっている,零細な中小企業の短期融資の需要があるとして,上限金利を年30%程度まで引き上げ,総量規制を見直すことを目指す動きが生じている。

しかし,多重債務問題の根本的原因は,高金利と過剰融資である。その根本的原因を解決するため,当会は,2006年(平成18年)3月22日の意見書において,上限金利の引き下げ,及び直ちに旧貸金業規制法43条のみなし弁済規定を廃止することを求めたのであり,国会においても,全会一致で改正貸金業法が成立したものである。

規制緩和を目指す一部の国会議員が指摘するヤミ金に関しては,相談件数も警察の検挙数も減っており,被害規模も小型化するなど,ヤミ金被害が広がっている根拠はない。近年,貧困層が拡大していることを鑑みると,正規の貸金業者から借りられない人に対しては,高利で貸し付けるのではなく,「高利に頼らなくても生活できる」セーフティネットや相談体制の更なる充実が重要である。また,零細な中小企業に対し必要な対策は,「短期の高利の資金」提供ではなく,総合的な経営支援策である。

当会は,改正貸金業法完全施行の成果を無にしかねない,金利規制・総量規制の緩和に強く反対するものである。


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