奈良弁護士会

大阪市のアンケート調査の撤回を求める会長声明

奈良弁護士会
会長 飯田 誠

大阪市は、本年2月9日、「市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動、組合活動」について「徹底した調査・実態解明」を行うためと称し、市職員に対する政治活動・組合活動等に関するアンケート実施を各所属長に依頼した。

本依頼と一体となった橋下徹大阪市長の職員への要請文書には、「このアンケート調査は、任意の調査ではありません。市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求めます。正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます。」と明記されている。しかも、今回の回答方法について「速やかに集計・分析を行う必要があるため、紙での回答は受け付けません」とし、「庁内ポータルサイト」内の「アンケートサイト」利用を求めるとともに、「各職員には総務局人事課から調査依頼を個人アドレス宛てに送付」するとされている。つまり、本アンケート調査は強制力を持ち、誰が回答し、回答していないかが一目瞭然となる仕組みとなっている。

そこで、本アンケートの内容を検討するに、全22の詳細な質問項目からなっており、組合活動や政治活動に参加した経験があるか、それが自己の意思によるのか、職場で選挙のことが話題になったか否か等について実名で回答を求めるとともに、組合活動や政治活動への参加を勧誘した者の氏名について無記名での通報を勧奨している。建前上、本アンケートは外部の「特別チーム」だけが見るとされていても、アンケート内容により処分を行うとされている以上、結局は市当局がアンケート内容を知ることに変わりはない。

このようなアンケートは、労働基本権を侵害するのみならず、表現の自由や思想良心の自由といった憲法上の重要な権利を侵すものである。

すなわち、まず、本アンケートが職員に組合活動の参加歴等につき詳細な回答を求めることは、実質的に労働組合にとどまり、あるいは新たに加入することに心理的圧迫を与えるもので、労働組合活動を妨害する不当労働行為(支配介入)に該当し、憲法で保障された労働者の団結権を危うくするものであることは明らかである。

また、政治活動への参加歴や職場で選挙のことが話題にされることを一律に問題視して回答を求めることは、憲法21条によって保障された政治活動や政治的意見表明を萎縮させ、その自由を不当に侵害するものである。なるほど、地方公務員は公職選挙法により公務員の地位利用による選挙運動が禁止されており、非現業の地方公務員は地方公務員法により政党その他の政治団体の結成関与や役員就任等、勤務区域における選挙運動などが限定的に禁止されている。しかし、本アンケートの質問項目は、その禁止の範囲を明らかに逸脱しており、必要性、相当性を欠く過度な制約である。その意味でも本アンケートは不当なものである。

さらに、本アンケートが、アンケート項目の内容が「違法行為」であるかのごとき前提で、懲戒処分付きの業務命令でなされていることに鑑みれば、同アンケートはいわば職員に対する「踏み絵」であって、憲法19条が保障する思想良心の自由を侵害するものである。

加えて、本アンケートには、他の職員、職場の関係者ないし一般市民の言動についての質問項目が含まれており、これらについては無記名での情報提供を勧奨している。

従って、本アンケートは当該公務員のみならず、一般市民を含むより広汎な関係者の憲法上の権利に重大な侵害を与えるものであると言わざるを得ない。大阪市においてこのようなアンケートが実施されれば、他の地方自治体にも波及し、全国の地方公務員の人権を危うくするおそれが高い。

よって、当会は、大阪市に対し、このような重大な人権侵害を伴うアンケートの違法性を認め、撤回することを求めるものである。


戻る