奈良弁護士会
会長 相良 博美
- 日弁連速報(№20)並びに本年5月31日付朝日新聞朝刊によれば、5月30日に開催された司法制度改革審議会の審議において弁護士費用敗訴者負担制度を導入することで審議会委員の意見の一致を見たとの報道がなされている。
- しかし、同日の審議内容について聞くところによれば、主婦連の吉岡委員、連合の高木委員、東電の山本委員らの意見は、専ら片面的敗訴者負担制度に賛成する趣旨で敗訴者負担賛成の意見を述べたとも言われており、必ずしも一般的、原則的に敗訴者負担制度の導入に賛成する意見ではなかったようである。そもそも敗訴者負担に関する意見交換は15分程度であったようであり、十分に検討吟味された結論でもなかったように思われる。
しかるに、審議会終了後、竹下会長代理が上記報道にあるような発表をしたために、いかにも民事裁判一般について敗訴者負担を原則とすることが審議会の結論として一致したかのように報道がなされた。
- このように同日の審議会が果たしてどのような趣旨で敗訴者負担制度について審議を行い、意見の一致を見たのか、その正確な詳細は明らかではないが、仮に一般的、原則的に敗訴者負担制度を導入するというのであれば、それは日弁連民訴費用制度等検討協議会が昨年11月に作成した報告書の趣旨と相容れないものである。同協議会報告では、一般的な敗訴者負担制度を設けることには問題があるとの大前提で一致した上で、行政訴訟、国賠訴訟、消費者訴訟など社会的弱者と社会的強者との間の訴訟において、社会的弱者が勝訴した場合等において敗訴者に弁護士費用を負担させる、いわゆる片面的敗訴者負担制度を導入するべきであると指摘している。
- 上記のとおり日弁連内において設置された協議会が敗訴者負担制度の導入について一定の見解を示しているなか、日弁連執行部としては同報告書の趣旨に添った見解を示すべきであり、一般的に敗訴者負担制度を導入する意見に対しては日弁連の立場を明確にする必要がある。
司法制度改革審議会の日程では、6月13日に日弁連に対するヒヤリングがなされるとのことであるが、敗訴者負担制度の導入については軽々に同調されることのないよう、上記報告書の趣旨に添った見解を示されるよう要請する。