奈良弁護士会

出入国管理及び難民認定法改正案に反対する会長声明

2021年(令和3年)3月30日
奈良弁護士会会長 宮坂 光行

  1.  法務省の出入国管理政策懇談会の下に設置された収容・送還に関する専門部会は,2020年6月19日,「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を取りまとめ,本提言は,同年7月14日,法務大臣に提出された。そして,政府は,2021年2月19日,本提言を踏まえ,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の改正案(以下「本改正案」という。)を国会に提出した。
     しかしながら,本改正案には,①退去強制令書の発付を受けた者に退去等を命ずる制度を創設するとともに,かかる命令に違反した者に対する刑事罰を定める点,②3度目以降の難民認定申請に対しては,送還停止効を認めないとの例外を定める点,③仮放免された者の逃亡等の行為に対する刑事罰を定める点につき,以下に述べる通り,看過できない問題が存在する。
  2.  ①の点であるが,退去強制令書発付までの間になされる審査において,本国への帰国困難事情の有無等をいかに考慮したとしても,全て行政機関内で実施される審査にとどまり,中立かつ公平な司法審査とは質が異なる手続である。
     実際,退去強制令書が発付された後,司法による救済を求めた結果,在留が認められたというケースも相当数存在する。
     それにもかかわらず,未だ司法審査を経ていない者に対して,刑事罰の適用をもって退去を強制することは,被収容者の裁判を受ける権利を侵害するおそれがあると言わざるを得ない。
     また,本改正案では,退去強制令書の発付を受けた者の支援者らも,共犯や犯人隠避罪等に問われる可能性があり,そのような支援者らの活動にも萎縮的効果をもたらすおそれが強く,容認することができない。
  3.  ②の点であるが,入管法上,難民認定申請の審査中は,強制送還をされないという,いわゆる送還停止効が認められている。
     もともと,我が国の難民認定率は諸外国と比べても著しく低く,本来難民認定されるべき者が,正しく認定されていないとの批判もある。実際,数度に及ぶ難民認定申請の末に,難民認定がなされて在留が認められるというケースも相当数存在する。
     このような我が国の難民認定制度の問題点を何ら改善することなく,送還停止効に例外を創設する本改正案は,難民を,迫害を受けるおそれのある領域に送還してはならないという国際法の原則(ノン・ルフールマン原則。難民の地位に関する条約第33条第1項)に抵触するおそれがあると言わざるを得ない。
     送還され,その生命・身体等が侵害されてしまうと,後に回復することはできないのであるから,安易に送還停止効の例外を設けることは許されない。
  4.  ③の点であるが,仮放免された者が逃亡した場合には,既に保証金の没取という措置が存するところであり,重ねて刑事罰を創設する必要があるのか,その立法事実に大いに疑問が存する。
     また,万一,仮放免を受けた者が逃亡した場合には,その者に対する支援者らも共犯等に問われる可能性があり,萎縮的効果をもたらすおそれが強いという,前記2で述べたのと同様の問題もある。
  5.  総じて,本改正案は,送還忌避・長期収容の課題を,もともとの手続や制度の欠陥を正すという方向ではなく,刑事罰等の威嚇によって早期送還を強行するという方向を選択して解消しようとしており,そこに根本的な問題がある。被収容者の人権と尊厳の保障にまず目を向け,収容に対する司法審査の導入や難民認定制度の適正化,収容期間の上限設定等の方法により解消することを基本とすべきである。
     よって,当会は,本改正案に反対する。

以 上

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