奈良弁護士会

近く実施される最高裁判所裁判官国民審査についての会長談話

2021年(令和3年)10月25日
奈良弁護士会 会長 中村 吉孝

 間もなく衆議院の総選挙が実施されます。この総選挙に合わせて最高裁判所裁判官の国民審査が行われます。今回の国民審査では、過去最多の11名の裁判官が審査の対象となります。

 日本国憲法は、最高裁判所に、法律、命令、規則や実際に行われた処分が、「憲法に適合するかしないかを決定する権限」を与えています。

 最高裁判所が憲法に「適合する」という判断(合憲判断)をすれば、その法律や命令などに示された立法や行政のあり方に、憲法の名において根拠を与えることにもなります。他方、憲法に「適合しない」という判断(違憲判断)をすれば、「全国民の代表者」により組織される国会が制定した法律であっても、個人の人権保障の観点から制限をかけることができます。嫡出子と非嫡出子で相続に差を設けていた民法の規定は違憲判断の後速やかに廃止され、女性に再婚の期間制限を設けていた民法の規定は不合理と判断された部分が直ちに修正されました。尊属殺に重い処罰を求めていた刑法の規定も、違憲判断の後は適用されることなく廃止されました。最高裁判所の判断はこのように重いものです。

 しかし、最高裁判所裁判官のものの考え方や意識が、民意とあまりにかけ離れてしまえば、このような最高裁判所の判断も尊重されなくなってしまいます。国民審査は、国民がこのずれを修正できる唯一の機会です。県民の皆さんには、ご自身の物差しで、それぞれの裁判官のものの考え方を判断していただき、ぜひこの機会を活用していただきたいと考えています。

 でも裁判官のものの考え方といっても、何を手掛かりにすれば良いのでしょうか。ひとつの判断材料として、最近注目を集めた最高裁判所の裁判例をリサーチするのはいかがでしょうか。大崎事件再審請求に関する決定(令和元年6月25日決定)、参議院の一票の格差に関する判決(令和2年11月18日判決)、袴田事件再審請求に関する決定(同年12月22日決定)、夫婦別氏に関する決定(令和3年6月23日決定)など、これらの裁判例に関わった裁判官がどのような判断をしたかについて、県選挙管理委員会から配布される審査広報、報道機関が開設したサイトや新聞記事などをご覧いただき、ご自身のお考えと比較して判断されるのも良いと思います。また、弁護士会も意見を発出しております。当会のホームページにアクセスして参考にしていただければ幸いです。

 最後に、国民審査は、裁判官をリコールする制度と考えられています。そのため、リコールしたい裁判官に×印を打ち、そうでない場合には何も記入しないのが現在の投票方法です。ご注意ください。

 ×印をつけるのもつけないのも、皆さんの貴重な参政権のひとつです。どうか投票所に足を運んで実際に投票することで、その権利を積極的に行使してください。

戻る