奈良弁護士会

いわゆる「谷間世代」への一律給付を内容とする立法措置を求める会長声明

  1.  当会は、国に対し、ここに改めて、いわゆる「谷間世代」すなわち司法修習新第65期から第70期までの法曹に対する一律給付を内容とする立法措置を速やかにとることを求める。

  2.  司法の担い手である法曹の養成は、国が国民に対して負う責任である。戦後約60年余り維持されてきた法曹養成制度における給費制の重要性に鑑み、当会は、給費制の復活を求める活動を継続してきたところ、2017年(平成29年)4月、修習給付金制度が創設された。
     しかし、政府は、本来、修習給付金創設と同時に対応すべき問題、すなわち、谷間世代に与えた負担を解消するための是正措置をとろうとせず、今なお、これを放置している。その弊害は大きく、司法制度の根幹を揺るがす事態に至っていると言っても過言ではない。

  3.  すなわち、谷間世代の法曹は、約1万1000人に及び、全法曹の約4分の1を占めるところ、その実情は、日本弁護士連合会、各地の弁護士会が実施した調査や谷間世代に対するアンケート等によれば次のとおりである。
     まず、谷間世代の法曹の大半が、給費制廃止後に創設された貸与制を利用して司法修習中の生活資金を工面しており、法曹資格を得るために、約300万円から1000万円近くの債務を抱えて司法修習を終えている。
     そして、司法制度改革の際になされた国の説明とは異なり、谷間世代の就職事情は厳しく、また弁護士の所得も減少傾向にある。
     谷間世代の法曹は、他の世代の法曹と同様に、社会的意義は大きいが相応の対価を得ることの難しい公共的役割を担っている。だが、これは、谷間世代の法曹の犠牲的な努力の下に成り立っており、実際には、谷間世代の法曹に過酷な環境を強いていることに他ならない。

  4.  法曹養成制度において法曹人材の確保・充実には給費制は極めて重要であるが、国はその判断を誤り、給費制を廃止してしまった。この判断の誤りによって、本来、国が負担すべき法曹養成費用を自己負担させられ、司法制度の担い手たる役割を十全に果たすことを阻害されているのが谷間世代なのである。
     国は、修習給付金制度を創設したものの、谷間世代に対し何ら是正措置をとらず、現在する法曹約4分の1の力を阻害し、国民が必要とする法曹人材の力を流出・弱体化させ、司法制度の根幹を揺るがす事態を招いている。
     このような現状を前に、日本弁護士連合会は、2019年(平成31年)4月より、受給要件を満たす谷間世代の法曹に対し、20万円の給付金を支給し、また、当会も、同年2月の定期総会において、「司法修習生の修習期間中に給与及び修習給付金の支給を受けられなかった会員を対象とした給付金に関する規程」を設け、受給要件を満たす会員に対し、最長期間を10年間として、月額7000円の給付金の支給を行い、給費制廃止による弊害の是正に努めている。
     しかし、この問題を早期かつ抜本的に解決するためには、国において、速やかに、谷間世代への一律給付措置の立法措置がとられる必要性がある。
     名古屋高等裁判所も、給費制廃止違憲訴訟判決において、「従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならない」と述べ、「例えば、谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないかと感じられる」と付言しているところである(名古屋高判令和元年5月30日)。

  5.  今般、全国会議員の過半数の議員から、日本弁護士連合会・各弁護士会に応援メッセージが寄せられた。奈良県選出の国会議員各位には、早々に応援メッセージを寄せていただいたのみならず、各地で実施されている集会にもご参加くださっているところである。また、奈良県議会においても、2015年(平成27年)10月9日、「司法修習生の経済的支援のあり方を検討することを求める意見書」が可決されている。
     このような動きは、多数の国民が、谷間世代の現状を司法制度の根幹に関わる問題である旨認識し、国に対し、早期かつ実効性ある措置を求めていることに他ならず、是正措置をとらない国の不作為が正当化される事情は見当たらない。
     以上のことから、当会は、すでに、2018年(平成30年)8月27日付で、「貸与制下で司法修習を受けた者の不公平・不平等の是正措置を求める会長声明」を表明しているものであるが、ここに改めて、谷間世代に対する立法による事後的救済の速やかな実現を求めるものである。

    2023年(令和5年)3月24日
    奈良弁護士会
    会長 馬場 智巌

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