奈良弁護士会

奈良県の最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

  1.  厚生労働大臣は、例年通りであれば、2023年6月、中央最低賃金審議会に対し2023年度の地域別最低賃金額の改定の目安についての諮問を行い、7月には、その答申がなされる見込みである。
     これを受け、奈良地方最低賃金審議会においても、同年度の奈良県の地域別最低賃金に関する審議がなされ、奈良労働局長によって決定される。
  2. ここで2022年度の奈良県の地域別最低賃金であるが、時間給896円とされている。この金額は、前年度から30円の引上げとなったものの、全国の加重平均である961円を大幅に下回る実態は放置されたままである。仮に月に173.8時間働くとしても、月額15万5725円に留まる。このような最低賃金の水準では、貧困の解消、労働者の生活の安定や向上を図る上で不十分であり、事業の公正な競争を確保することも困難である。
     また、同年度における周辺府県の地域別最低賃金は、大阪府が1023円、京都府が968円、滋賀県が927円、三重県が933円となっており、いずれも900円ないし1000円を超過し、奈良県の地域別最低賃金を大幅に上回っている。あいかわらず奈良県と周辺府県との格差の問題は、解消されていない。
  3.  昨今の調査研究によれば、最低賃金を定めるにあたって重要な考慮要素とされている労働者の生計費に関し、都市部と地方との間で、ほとんど差がないことが明らかになっている。これは、地方では、都市部に比較して住居費が比較的低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。このような指摘は奈良県にもあてはまり、東京都との格差もさることながら、周辺府県との格差を放置したままにしておけば、将来、有為な人材の流出にもつながりかねない。
     2023年4月6日、中央最低賃金審議会は、これまで4段階で運用されてきたいわゆる目安について、これを3段階に改める方針を明らかにした。この方針も、実効性の如何については議論があるものの、地域間格差の是正を目的としていることは間違いない。
  4.  さらに、昨年来、食料品を含めた物価の急激な上昇が続いている。2020年を基準とした場合でも、食料品全体で4.5ポイント、光熱・水道費にあっては16.3ポイントの上昇となっている(2023年1月20日総務省発表にかかる2020年基準消費者物価指数)。
     労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、このような物価の上昇を労働者一人一人の賃金に反映させることが重要であることはいうまでもない。
  5.  ところで、最低賃金の引上げは、中小企業の経営に大きな影響を与える。
     中小企業の経営を長期的に支援し、従業員の雇用を保護していくためには、従前より使い勝手の悪さの指摘されてきた業務改善助成金制度を使いやすいものに改めることは勿論として、例えば、原材料価格等の上昇分を企業間の取引価格に正しく反映していく仕組みを整えたり、社会保険料の使用者負担分の減免といった思い切った中小企業向けの施策もワンセットで検討されなければならない。
     また、最低賃金の引上げは、扶養控除の枠内で働くことを希望する労働者の実労働時間を減少させる面があり、人手不足に悩む中小企業にとって問題である。この点については、税や社会保障制度の枠組全体の見直しに向けた検討が必要となる。
  6.  以上の通り、奈良県における最低賃金の引上げは急務である。本年度の場合、大阪府に加え、京都府においても地域別最低賃金が1000円を超える可能性がある。奈良県において、周辺府県との格差を少しでも是正するためにも、少なくとも950円を上回るような引上げがなされなければならない。

2023年(令和5年)5月16日
奈良弁護士会
会長 山 口 宣 恭

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