奈良弁護士会

奈良県の最低賃金の大幅な引上げを求める会長声明

  1.  厚生労働大臣は、2024年6月頃、中央最低賃金審議会に対し、2024年度の地域別最低賃金額の改定の目安についての諮問を行う予定となっており、例年通りであれば、7月には、その答申がなされる見込みである。
     これを受け、奈良地方最低賃金審議会においても、同年度の奈良県の地域別最低賃金に関する審議がなされ、奈良労働局長によって決定される。
  2.  ここで2023年度の奈良県の地域別最低賃金であるが、時間給936円とされている。この金額は、前年度から40円の引上げとなったものの、仮に時間給936円で月に173.8時間働くとしても、月額16万2677円、年額195万2124円の収入に留まる。このような最低賃金の水準では、貧困の解消、労働者の生活の安定や向上を図る上で不十分であり、事業の公正な競争を確保することも困難である。
  3.  また、同年度における奈良県の地域別最低賃金は、全国の加重平均である時間給1004円や、東京都の地域別最低賃金である時間給1113円を大幅に下回っている。
     さらに、同年度における周辺府県の地域別最低賃金は、大阪府が1064円、京都府が1008円、兵庫県が1001円、滋賀県が967円、三重県が973円となっており、奈良県の地域別最低賃金を大幅に上回っているなど、あいかわらず周辺府県との格差の問題も解消されていない。 近年の引上げ実績を踏まえれば、本年度、三重県を含む近畿二府五県のうち、和歌山県を除く府県の本年度地域別最低賃金が時間給1000円を超える可能性は高く、格差が広がりかねない。
     ところで、2023年度の地域別最低賃金額の改定に当たり、特に東北地方、九州地方に属する他県においては、中央最低賃金審議会の地域別最低賃金額改定の目安において示された引上げ額を大きく超えた引上げがなされた例も多数みられる。これは、最低賃金額が隣接する他地域より低廉となっている地方において、賃金の高い都市部への人材流出が深刻な課題となっていることへの危機感の表れに他ならない。
     奈良県においても、人材流出の問題に真剣に取り組むのであれば、目安額にとらわれることなく、周辺の府県との格差を縮小できるような形で最低賃金額が定められることが望ましい。
  4.  昨今の調査研究によれば、最低賃金を定めるにあたって重要な考慮要素とされている労働者の生計費に関し、都市部と地方との間で、ほとんど差がないことが明らかになっている。これは、地方では、都市部に比較して住居費が比較的低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。
     このような指摘は奈良県にもあてはまり、東京都との格差もさることながら、周辺府県との格差を是正し、人材の流出を防止する必要がある。
  5.  上記の地域間格差の是正の必要に加え、昨今、食料品や光熱費を含めた生活関連品の価格は急上昇している。令和6年1月19日付総務省の報道資料によれば、2023年度の全国消費者物価指数(年平均。2020年を100とする。)は、食料品全体は115.2ポイント、生鮮食品は116.0ポイントを記録し、光熱・水道費は107.1ポイントとなっている。
     労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、このような物価の上昇をひとりひとりの労働者の賃金に反映させるという意味において、大企業だけでなく全ての労働者の実質賃金の上昇又は維持を実現する必要があり、そのためにはまず最低賃金額を大きく引上げることが何よりも重要である。
  6.  他方で、最低賃金の引上げは、労働者を雇用する中小企業にとっては、人件費の増加による経営負担の増大をもたらす。最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度による支援を実施している。しかし、その支援は未だ十分とは言い難く、日本の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制することなどの支援策も有効であると考えられる。
  7.  以上のとおり、奈良県における最低賃金の引上げは急務である。奈良県においても、周辺府県との格差を少しでも是正する必要があることからすれば、本年度の地域別最低賃金は、時間給1000円を上回るような引上げがなされるべきである。

2024年(令和6年)6月25日
奈良弁護士会         
会長 嶋 岡 英 司


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