奈良弁護士会

刑事再審手続に関する要綱(骨子)に反対し、議員立法による再審法改正の早期実現を求める会長声明

  1.  法制審議会は、刑事再審手続きについて要綱(骨子)記載の法整備を行うべきであるとする答申案を本年2月12日に採択した。
     法制審議会刑事法(再審関係)部会の審議運営の公正性、中立性に疑問があることは、当会の本年1月15日付「法制審議会刑事法(再審関係)部会の審議の進め方に抗議し、議員立法による再審法改正の実現を求める会長声明」において指摘していたが、同部会の審議を経て作成された要綱(骨子)の内容も、以下で指摘するとおり、えん罪被害者の速やかな救済という再審法改正の本来の目的に反し、かえってえん罪被害者の救済を困難にしかねない不適切なものとなっている。

  2.  第1に、要綱(骨子)は、「再審の請求についての調査手続」を設け、再審の請求を受けた裁判所が調査した結果、「再審の請求の理由がないことが明らかである」と認めるときは、事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、直ちに再審請求を棄却することを義務付けている。
     しかし、過去の再審無罪事件では、再審請求後に裁判所が行う意見聴取や求釈明、裁判所の勧告を踏まえて行われる証拠開示等を通じて再審請求の理由が具体化・実質化される場合が多いが、「再審の請求についての調査手続」が設けられた場合、えん罪被害者が無罪につながる証拠の開示を受けられないまま、書面審査のみで再審請求が安易に棄却されるおそれがある。

  3.  第2に、要綱(骨子)は、証拠開示について、裁判所に証拠を提出する方法によるものとし、その対象も「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」で、「その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認める」ものに限定している。
     しかし、当該証拠が無罪につながる証拠であることが裁判所から一見して明らかな場合は少なく、その判断のためには、再審請求人や弁護人による検討と主張が不可欠であって、再審請求人や弁護人が主張立証を準備するために必要な証拠は幅広く開示されなければならない。それにもかかわらず、要綱(骨子)では、裁判所が再審請求の判断をするために必要かつ相当と認めて証拠の提出を命じない限り、弁護人は、捜査機関が保管する証拠を閲覧・謄写することができない。また、再審請求人には、そもそも証拠を閲覧・謄写する権限が認められていないので(刑事訴訟法40条)、弁護人が選任されていない再審請求人は、証拠にアクセスすることすらできない。
     しかも、要綱(骨子)は、弁護人が検察官から提出を受けた証拠を謄写したときは、その複製等を再審の請求の手続又はその準備等に使用する目的以外の目的で他に交付、提示又は提供することを禁止しているが、禁止される行為の外延が明確ではないため、再審請求人や弁護人の活動を萎縮させ、えん罪被害者の速やかな救済を困難にするおそれがある。

  4.  第3に、要綱(骨子)は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止(廃止)していない。
     過去の再審無罪事件から明らかなとおり、再審開始決定に対する検察官の不服申立てそれ自体が、えん罪被害者に防御の負担や手続の長期化等多大な負担を強いるものとなっている。そもそも、検察官は、再審請求手続の当事者ではなく、公益の代表者として裁判所が行う審理に協力すべき立場に過ぎず、また、再審公判において確定判決の正当性を主張することも可能なのであるから、検察官に再審開始決定に対する不服申立てを認める必要はない。

  5.  なお、要綱(骨子)では、要綱(骨子)記載の制度の運用について、多くの附帯事項を設けているが、これらは単なる期待・要望に過ぎず、えん罪被害者が速やかに救済されるような運用は期待できない。

  6.  このように要綱(骨子)は、えん罪被害者の速やかな救済という再審法改正の目的とは程遠い内容となっている。
     一方、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が取りまとめた「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「議連法案」という。)は、再審請求手続における検察官保管証拠等の開示を幅広く認めるとともに、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止(廃止)する等、高く評価できるものである。
     よって、当会は、要綱(骨子)に反対し、国に対し、議連法案を可及的迅速に成立させることを求める。

2026年(令和8年)2月25日
奈良弁護士会     
会長 中西 伸之


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