奈良弁護士会

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会長声明

大崎事件最高裁決定を契機として刑事再審手続に関する法改正を訴える会長声明

2019/08/27

 奈良弁護士会 
 会長 石黒 良彦
 

  1.  さる6月25日、最高裁判所第一小法廷は、いわゆる大崎事件第三次再審請求事件の特別抗告審について、再審を開始するべきとした鹿児島地方裁判所及び福岡高等裁判所宮崎支部の各決定を取り消して、原口アヤ子さんらの再審請求を棄却しました。

  2.  しかし、私たちは、この最高裁判所の決定は不当であると考えます。
     大崎事件は、確定判決の有罪証拠の証明力が脆弱であってえん罪の可能性が強く指摘されており、日本弁護士連合会も再審請求を支援しています。そして、第三次再審請求において、鹿児島地方裁判所及び福岡高等裁判所宮崎支部は、いずれも、弁護団が新たに提出した科学的鑑定が有罪証拠の証明力を相当程度減殺することを認めて、再審を開始するべきと判断しました。
     これに対し、最高裁判所は、検察官の特別抗告について、刑事訴訟法が定める特別抗告理由にあたらないとしながらも、しかし原決定及び原々決定を取り消さなければ著しく正義に反するとしてあえて職権でこれを取り消し、かつ、請求棄却を自判したのです。
     しかし、現行法上、再審手続がえん罪被害からの救済のためにあることは明らかであり(刑事訴訟法435条柱書)、したがって、そこでいう「正義」も、誤った判断を受けた人の汚名を雪ぎ不利益を回復する方向のものと考えるべきです。ですから、最高裁判所の論理は素直に了解できるものではありません。むしろ、再審の開始要件を殊更に厳格に解する余り、その機会すらほとんど与えないということこそ、「著しく正義に反する」というべきです。
     本件では、2つの下級審が長期間にわたる審理を遂げたうえでいずれも確定判決の事実認定に対する合理的疑いが成り立ち得ることを認めたのですから、基本的に法律審である最高裁判所は、その判断を尊重し、速やかに再審が開かれるべきでした。

  3.  このような再審制度の趣旨に反する最高裁決定がなされてしまった以上、私たちは、えん罪に苦しむ人々が速やかに救済されるためには、もはや、再審手続に関する法改正が必須と考えます。
    (1)まず最初に、再審開始決定に対する検察官からの不服申立を禁止するべきです。
     再審開始決定は、確定審の有罪判決の事実認定について合理的な疑いが生じているということを意味しますから、本来、速やかに再審公判が行われるべきです。それでも検察官が確定判決に誤りがないと考えるのであれば、再審公判の場で改めて有罪主張・立証を行えばいいのです。その入口自体を殊更に入りにくくする必要はありません。仮にそのような法制度であれば、先の最高裁決定もそもそもなされることがありませんでした。いや、大崎事件では、そもそも、第一次再審請求に対し2002(平成14)年3月に鹿児島地方裁判所が再審開始決定をしていますから、その後速やかに原口さんらに対する救済が済んでいたかもしれないのです。
    (2)次に、捜査機関が収集した証拠の全面的開示が義務化されるべきです。
     松橋事件や布川事件等多くの再審事件において、弁護人側に未だ開示されていなかった証拠の存在が再審無罪に結び付いたことは広く知られています。そもそも、判決確定後の再審請求事件においては、もはや証拠隠滅の可能性を懸念する必要はほとんどなく、すなわち開示の弊害も考えられません。したがって、捜査機関の収集証拠は弁護人側に全面的に開示されるのが公平です。
     しかし、大崎事件でも、検察官が未開示の証拠は一切存在しない旨断言した後に、更なる未開示証拠の存在が明らかになるということがありました。このように、現在の検察官に「公益の代表者」としての公正性を必ずしも期待できないのであれば、法によって収集証拠の全面的開示を義務付けるしかありません。そのようにして開示された証拠に基づいて、確定判決の事実認定に対する合理的な疑いが生じることが少なからずあるはずです。
     この点については、そもそも、2016(平成28)年の刑事訴訟法の改正の際に、改正附則として、「政府は、この法律の公布後、必要に応じ、速やかに、再審請求審における証拠の開示(中略)等について検討を行うものとする」(9条3項)と定められたのですから、議論が速やかに開始されねばなりません。

  4.  人が人を裁く以上、誤りを完全に根絶することはできないでしょう。そうであるならば、誤判からの無辜の救済のための再審手続の重要性もいつまでも失われることはなく、むしろ、これを実効性あるように改善していかねばなりません。
     したがって、私たちは、再審制度の趣旨に反する大崎事件特別抗告審の最高裁決定に対し憤りをもって抗議するとともに、これを契機として、今こそ、刑事再審手続に関する法改正を社会に訴える次第です。
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