奈良弁護士会

奈良県の最低賃金額の大幅な引き上げを求める会長声明

 奈良弁護士会 
 会長 石黒 良彦
 

  1.  現在、厚生労働大臣は、中央最低賃金審議会に対し、2019年度地域別最低賃金額の改定の目安についての諮問を行っており、本年7月には、その答申がなされる見込みである。
    その後、奈良地方最低賃金審議会においても審議がなされた後、奈良労働局長によって、同年度の奈良県の地域別最低賃金が決定される。
  2.  ここで、2018年度の奈良県の地域別最低賃金であるが、時間給金811円とされている。2016年度以降、年額金22円ないし金25円の引き上げがなされてきたが、2018年度においても全国の加重平均である時間給金874円を大幅に下回っている。
    また、同年度における周辺府県の地域別最低賃金は、大阪府が同936円、京都府が同882円、滋賀県が同839円、三重県が同846円となっているなど、いずれも奈良県の地域別最低賃金を大幅に上回っており、その格差は深刻である。
    実際に、最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係が認められ、特に若年層では、最低賃金の低い地方から最低賃金の高い地方への流出する傾向が明らかになっている。
  3.  最低賃金法は、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」(1条)を目的としており、地域別最低賃金は、「地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定めなければならない」(9条2項)とされる。
    しかし、労働者が通常の社会生活を送るために必要な生計費の水準に関して言えば、最近の労働組合や研究者による調査によると、月額22~24万円とされている(年額264~288万円)。これは、月に173.8時間働くと仮定した場合、時間給に換算すると1300~1400円に相当する。一方、昨年度の奈良県における地域別最低賃金の水準は、同様に仮定すると月額約14万円(年額約169万円)に留まり、これを大幅に下回っている
  4.  ところで、最低賃金の大幅な引き上げは、中小企業の経営に影響を与えることが予想される。
    したがって、社会保険料の減免や減税といった中小企業の経営を支援する施策も必要である。また、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法といった中小企業を保護する役割を果たす法制度をこれまで以上に積極的に運用する必要もある。
  5.  以上の通り、奈良県における地域別最低賃金の水準は、貧困の解消、労働者の生活の安定や向上を図る上で不十分であるばかりではなく、奈良県における地域経済の健全な発展の妨げともなりかねない。
    よって、当会は、奈良地方最低賃金審議会に対し、本年度、奈良県における地域別最低賃金を決定するにあたって、中央最低賃金審議会の示す目安に過度にとらわれることなく、昨年度における時間給金811円という水準を大幅に上回る思い切った引き上げを求める。

戻る