奈良弁護士会

法律事務所法人化問題に関する意見書

日本弁護士連合会
会長 久保井一匡殿
奈良弁護士会
会長 相良 博美

法律事務所法人化問題について、当委員会において論議した結果を意見書にまとめましたので提出します。

意見の要旨

  1. 法律事務所の法人化は、市民が良質な法的サービスに容易にアクセスするために必要な法律事務所のあり方の一選択肢として位置づけ、弁護士の独立性と弁護士自治が侵害されない制度であることを条件として容認すべきである。
  2. 法人の設立は、弁護士自治が侵害されない準則主義による設立形式を採用すべきである。
  3. 法人の対外的責任については、社員たる弁護士の無限連帯責任とすべきである。
  4. 法人の支所は、弁護士過疎地対策やより容易に弁護士へのアクセスを可能にするために重要な意義を有するものと位置づけ、社員又は非社員の弁護士の常駐を要件として容認すべきである。
  5. 主たる事務所所在地の単位会以外の単位会管内に支所を設置するにあたっては、必ず社員たる弁護士を常駐させることとし、支所に常駐する社員及び非社員の弁護士は当該単位会に登録することを要件とすべきである。
  6. 一人法人については、これを必要とする具体的ニーズが明らかでない限り容認する必要はないと考える。
  7. 法律事務所法人化問題とこれに関する情報を会員に周知し、会員間の意見交換を行うと共に当会の意見を集約するため、早急に全員協議会を開催すべきである。

意見の理由

  1. 法律事務所法人化を認めるか
    日本弁護士連合会(以下連合会という)では、業務対策委員会答申書、法律事務所法人化協議会意見書を受けて、1998年12月、法律事務所法人化に関する基本方針を理事会決定し、1999年1月から法人化に向けた法務省との意見交換を行ってきた。一方、政府は、規制緩和推進3か年計画に法律事務所法人化を規定し、平成12年度内の「措置」を閣議決定しており、司法制度改革審議会でも法人化が弁護士改革の論点のひとつとされている。

    もともと法人化は、(1)法律事務所の継続性確保により、法律事務サービスの高度化、専門化、効率化、安定化、合理化が図れること、(2)法律関係の明確化が図られること、(3)公益的業務への参加が容易になること、(4)税務上、社会保険制度上のメリットが享受できること等を理由に提起されてきた。

    しかし、上記の(1)(3)については、必ずしも法人化しなくても、複数弁護士による共同事務所化でも対応可能であり、法人化の推進による大規模事務所の出現はむしろ弁護士の公益的活動を衰退させる懸念すらある。従って、上記法人化のメリットが、法律事務所法人化を積極的に推進する根拠として十分な説得力を有するかについては疑問がないわけではない。後記のとおり、法人化容認によって弁護士自治への侵害を招く可能性が存することからすればなおさらである。

    ただ、法律事務所法人化が利用者のニーズであるとの声や弁護士の自己改革の視点を無視することはできない。規制緩和は専ら財界の要求であるとしても、企業も利用者の一部であり、また一般市民も法律事務所の法人化を拒否しているとは言い難い。むしろ、高度かつ専門的な法律事務サービスを安定的に、しかも容易に受けられる法律事務所の態勢こそを一般市民は求めていると言うべきであり、そのために弁護士自らが態勢づくりを追求すべきである。

    かかる観点からすれば、法律事務所の組織のあり方として、個人経営、パートナーシップ等の形態に加えて、選択肢の一つとして法人組織を認めることを拒否すべき積極的理由はないと考える。むしろ、市民への良質かつ容易な法的サービスの提供のために、法人化を積極的にとらえる視点も必要と思われる。

    但し、法人化を認めるとしても、前記連合会理事会決議にあるように、弁護士の独立性を保障するため弁護士のみを社員とする法人であり、法人の設立・指導・監督において弁護士自治が侵害されない制度とされることが不可欠であると考える。

  2. 法人の設立について
    連合会は、当初、法人の設立にあたっては連合会の認可を要し、連合会の備える法務法人名簿に登録されることが業務開始の要件であるとの試案を作成した。しかし、法務省が、法人の認可権限は国に専属するとの態度を崩さなかったため、連合会は「準則主義による設立」の方向で意見交換を続けている状況にある。

    言うまでもなく、法人化を認めるとしても、法人格取得にあたって許可、認可など行政機関や裁判所の権限に服させることは弁護士自治に反し、絶対に賛成することはできない。むしろ、中間法人の設立が準則主義を原則とする方向にあることをも考慮すれば、法律事務所の法人化についても準則主義を採用すべきである。準則主義を採用した場合も、対外的公示の必要から登記は必要であろうし、定款や社員資格のチェック、定款の認証、法務局の登記審査は必要と解されるが、これらはいずれも形式的なチェックであり、必ずしも弁護士自治に反するものではないと思われる。

    設立された法人の業務開始は、連合会及び単位会への登録を要件とすべきであり、連合会及び単位会の監督に服するのは当然である。

    なお、法人については、裁判所による解散命令(商法58条を参照)という公益的理由に基づく司法的手続に服することが制度化されている。これと弁護士自治との関係をどう考えるかは問題であるが、結論的には容認することもやむを得ないと考える。但し、法務大臣の請求に際して予め連合会の意見を聴取すべきことを義務づけるべきである。

  3. 法人及び社員の対外的責任について
    連合会では、受任業務上の債務と一般取引上の債務を区別し、前者については法人と担当した社員の無限連帯責任とし、後者については出資を限度とする有限責任とする方向で法務省と意見交換している。監査法人は社員の無限責任とされており、弁理士法人も無限責任を前提とした制度化の予定である。

    受任業務上の債務について、社員全員が無限責任を負うということに関しては、自ら関与しなかった社員弁護士とっては過度の責任を負わせることになりかねない、法人化のインセンティブを損なう、法人化しない共同事務所との均衡、アメリカなどでも有限化の方向であること等を理由に、これを連合会案のように限定すべきとする見解が強い。

    ただ、当委員会においては、無限責任を負わせる方が法人内の監督も進むこと、保険制度の利用で社員の過度の負担は事実上回避できること、使用者の利益を考慮すれば、担当社員に限定することなく社員全員が無限連帯責任を負うべきものとすべきとの意見が強かった。

    通常、第三者保護のため、法人には資本充実維持が求められ、会計内容の監査、公開ないし報告が求められることが多い。責任の有限化は、法律事務所法人に対する会計監査や財務内容の公開等を要求する方向につながることも考慮すべきである。

  4. 法人の支所問題
    連合会理事会の論議では、法人の支所を認めるか否かで、支所に反対する単位会の意見も多く出されている。他方、法務省は、法人である以上支所を設置できるのは当然であり、法人化を求めるニーズもそこにあるとの態度を貫いている。

    弁護士法20条3項は、弁護士の複数事務所を禁止しているが、これは非弁の温床となることを主たる立法趣旨とするものであって、当然ながら個人の弁護士を前提とする規定である。法人制度をとった場合には、支所に必ず社員弁護士を配置することとすれば解決可能である。弁護士間の過度の競争激化を避けるという趣旨もあったとしても、これを理由として支所設置に反対することは事実上不可能と考えられる。

    支所容認に反対する意見は、大都市の大規模法律事務所による支店設置が進み、地方の弁護士を圧迫し、ひいては公益的活動の衰退をももたらすこと、決して弁護士過疎地問題の解消にはつながらないこと等を挙げている。確かに、現実論としては、過疎地への支所設置よりも大都市における支所設置と大規模事務所の進出が急激に進むと予想される。外国法事務弁護士の法人化、支店設置も避けられず、そうなれば巨大ローファームの影響が現実化することも確かに懸念される。

    しかし、国民のニーズ(市民は複数事務所に反対するか)を考えた場合に、非弁の問題が生じない場合にまで複数事務所禁止を維持する必要が本当にあるのか。直ちに弁護士過疎地解消にはならないとしても、過疎地対策やより広く容易に弁護士へのアクセスを可能にするために、法律事務所のない過疎地に支所を設置できるということは、きわめて重要な意味をもつと言うべきである。もとより支所設置により弁護士間の競争が激化することが予測されるが、各弁護士の専門性の向上、サービスの高度化等によって対応せざるを得ず、連合会や単位会は専門認定、研修、広報などこれを支える活動にむしろ力を尽くすべきであろう。

    従って、当委員会としては、法人の支所設置を容認することとし、但し弁護士法20条3項の趣旨に照らし、支所には必ず社員か非社員の弁護士を常駐させるべきことにすべきであると考える

  5. 法人に対する監督について
    法人に対する監督は、法人の主たる事務所所在地の単位会、連合会が行うことになる。法人の社員たる弁護士に対して、当該弁護士が登録する単位会が監督権限を有することは当然である。

    問題は支所が設置された場合である。

    前項において、支所設置にあたっては、必ず社員又は非社員の弁護士を常駐させることを要件とすべきことを記載した。法人が同一単位会内に支所を設置する場合には、常駐する社員も非社員も当該単位会に登録するものであり、当該単位会が法人の支所並びに常駐する弁護士に対する監督を行うことになる。

    他方、法人が主たる事務所所在地とは別の単位会の管内に支所を設置する場合には、上記と異なり、必ず社員たる弁護士を常駐させることを要件とすべきであり、かつ支所に常駐する弁護士には当該単位会への登録を義務づけるべきである。

    けだし、単位会の支所への監督が実効性をもつためには、当該支所への社員たる弁護士の常駐が不可欠である。また支所問題に関しては、単位会の公益的活動に支所所属の弁護士が参加せず、公益的活動が衰退することを理由とする反対論がある。従って、これを回避するためには、当該支所に常駐する弁護士が必ず当該単位会に登録することとすべきである。

    なお、法人に対しては、主たる事務所所在地の単位会と支所所在地の単位会(支所の設置場所によって複数ともなる)との監督が競合することも予測される。この場合には連合会が調整すべきであると考えるが、各単位会や連合会の監督のあり方についても論議の必要があると思われる。

  6. 一人法人について
    法律事務所の継続性確保による法律事務サービスの高度化、専門化、安定化等の法人化の目的からすれば、必ずしも一人法人を認める必要もないかのように思えるが、社員1名と勤務弁護士複数という体制もありうることを考えれば、上記の目的に添うことも不可能ではない。もとより一人法人の支所設置にあたっては、上記の社員らの常駐という要件があり、これによる制約を受けるのは当然である。地方の単位会には、一人法人容認を求める意見が強く、一般に共同化の進展が大都市に比べて遅い地方の弁護士が、法人化という選択肢を享受するという観点で、一人法人を認めるメリットがあることは否定できない。

    ただ、当委員会においては、やはり理念的には社団という性格上、複数社員が必要ではないかという意見が強かった。法人化の目的に照らし、税務上ないし社会保険制度上のメリット以外に、敢えて一人法人を認める積極的理由が見いだしにくいことに鑑みれば、より具体的なニーズが明らかにならない以上は、複数社員を要件とすることで良いと考える。

  7. 今後の対応について
    法務省による法人化立法作業は、閣議決定に基づき進められており、平成13年1~3月に法案を国会に提出することを予定している。そのため連合会では、理事会で協議を重ねた上で、秋にも臨時総会が開催される見通しである。

    よって、当委員会の意見をたたき台として、早急に会員への情報周知を図り、法人化への当会の意見や奈良における法律事務所法人化の活用についても論議するための全員協議会を開催すべきである。


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