奈良弁護士会
国会においては、昨年来政府が提出していた「少年法等の一部を改正する法律案」につき去る5月11日に審議が開始された。
当会は、既に昨年6月2日に、少年法「改正」に反対する会長声明を出した。その理由は、同法案の内容が(1)予断排除の原則や伝聞証拠排除法則を採用しないまま少年審判に検察官の出席を認めており、成人の刑事手続きよりも少年が不利益な立場におかれているという点、(2)観護措置期間を現行の最長4週間から12週間に延長している点、(3)検察官に抗告権を認めている点などにおいて少年法の保護主義の理念を没却する危険性を有するものだからである。
少年事件は、少年に対するいじめが少年の心身に影響を与えていたり、家庭や地域社会における教育機能が崩壊していることが原因となっているなど、種々の問題が複雑に絡み合って発生していることが多い。従って、少年法の改正については、少年事件の事実関係や背景事情を正確に把握したうえで冷静な議論がなされなければならない。
また、今回の少年法「改正」案よりも一歩踏み込み、少年事件につき、刑事処分年齢を引き下げたうえで、殺人、強盗などの凶悪犯の少年を、少年審判ではなく原則刑事裁判で処分しようという議論まで出ている。しかし、昭和24年に保護と教育を理念とする少年法が施行され、以来50年以上この少年法によってつちかわれてきた実績を評価することなく、いたずらに厳罰化を叫ぶだけでは、少年事件の解決に役立たないことは明白である。
この少年法「改正」案は、昨年来衆議院に提出されてはいたものの、今国会に入っても当初は審議の動きはほとんどなかった。ところが、衆議院解散の含みになって急に動き始めた。これは5000万円恐喝事件、主婦刺殺事件、高速バスジャック事件というセンセーショナルな事件が相次いで起き、この時期に少年法「改正」案を審議することが絶好のタイミングと考えられたからと思われる。
このように、少年法改正の問題が、あるべき少年法制を議論するという本来の姿からはかけ離れているのが現状である。
当会としては、今国会における少年法「改正」法案の審議については、大きな憂慮の念を禁じ得ないところであり、ここに改めて同法案に対する反対の意思を明らかにするとともに、少年法の理念に立ち真の問題解決に向けた冷静な国民的議論がなされることを強く希望するものである。