奈良弁護士会

司法修習生に対する給費制の存続を求める総会決議

一 決議事項

2010(平成22)年11月1日より、司法修習生に対して給与を支給する制度(以下「給費制」という)が廃止され、修習費用を貸与する制度(以下「貸与制」という)が実施されようとしているところ、当会は、給費制を存続するための法改正を早急に行うことを強く求める。

二 決議の理由

  1. 貸与制による弊害
    現在、法曹(弁護士、裁判官及び検察官)になるためには、大学卒業後2年間又は3年間法科大学院に通うことが必要である。そのため、司法修習生の半数以上が、法科大学院在学時に奨学金等の貸与を受けており、その平均借入金総額は318万円強に達している(2009(平成21)年日弁連実施アンケート結果)。このうえ、給費制が廃止され貸与制になれば、さらに経済的負担の増大は避けられず、司法修習生は、多額の借金を抱えたまま法曹にならざるを得なくなる。加えて、近年の厳しい就職難から就職先が見つからないまま修習を終了する者も出ており、法曹になっても経済的状況が好転するとは限らない事態が生じている。このような状況が常態化すれば、経済的事情から法曹への道を断念せざるを得ない者が続出し、高い志や能力を備えた有為な人材が法曹界に集まらなくなることが強く懸念される。
  2. 司法修習における給費制の意義
    そもそも法曹養成は、単なる職業人の養成ではない。国民の権利擁護及び民主主義の確立にとって重要な法の支配の実現にかかわるプロフェッションとしての法曹、高い公共性や公益性を求められる者としての自覚を有する法曹を養成するものである。それゆえ、法曹養成制度の適切な設計と運用は、国及び社会の極めて重要な責務というべきである。司法修習生に対する給費制は、アルバイト等を禁止し修習に専念させる(修習専念義務)と同時に、国費によって養成されたとの自負から法曹としての社会的責任と公共心を醸成するものである。司法修習生に対する給費制を廃止することは、高度の専門的能力と職業倫理を兼ね備えた質の高い法曹の養成を担ってきた司法修習制度の根幹を揺るがしかねない重大な問題である。
  3. 給費制廃止理由の不当性
    給費制が廃止された理由は国の財政事情にあるが、そもそも裁判所関係の年間予算(司法予算)は、国家予算の約0.4%を占めるにすぎない。三権分立の一翼を担う司法予算がこれほど少額であること自体が諸外国と比べても異常であり、財政事情を理由に給費制を廃止することは許されない。
  4. 結語
    以上の理由から、当会は、2004(平成16)年の裁判所法改正を見直し、貸与制を実施することなく、給費制を維持することを強く求めるものである。

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