奈良弁護士会

犯行時少年の被告人の実名報道に関する会長声明

奈良弁護士会
会長 以呂免  義雄

 

本年4月12日付け奈良新聞は、当時奈良地方裁判所において公判が進行中であり当会会員が弁護人を務めた裁判員裁判の被告人について、当該被告人は犯行当時少年であったにも拘わらず、その氏名、年齢、職業及び住所の一部を記事中に掲載した。

これは、少年のときに犯した罪により起訴された者について、氏名等を明らかにすることにより、その者が当該事件の本人であることを推知することができるような報道をすることを禁じた少年法61条に反するものであり、極めて遺憾である。

少年法61条が実名報道を禁じたのは、少年法がその目的として掲げる「少年の健全な育成」(1条)の理念に基づき、少年のプライバシーが広く社会にさらされることにより少年の更生・社会復帰が阻害される事態を防止するためである。このような趣旨は犯行当時少年であったが現在成人している者についても等しく妥当し、それゆえに少年法61条は「少年のとき犯した罪により公訴を提起された者」についても同様に保護の対象としているのである。

確かに報道の自由は重要な基本的人権のひとつであるが、しかし、裁判に関する報道において、私人であるもと少年の実名等が不可欠な事実要素とは必ずしもいえない。むしろ、様々な事情から未成年ながら罪を犯してしまった者に対し、その成長を支援し地域社会全体で立ち直りを支える必要性が、優越するというべきである。

奈良新聞社は、この実名報道に対する奈良地方裁判所からの注意及び弁護人からの抗議を受けて、上記記事を掲載した翌日の紙面で「おわび」を掲載し、記事中の氏名部分について削除することとした。このように、直ちに自らの過誤を認め当該被告人のプライバシー回復に努めた姿勢は評価できるものの、しかし、実名報道はひとたびこれがなされてしまえば、その者のプライバシーはもはや完全には回復されず、社会復帰を妨げる可能性は結局残るといわざるを得ないことにも留意しなければならない。

したがって、当会は、奈良新聞社に対し、改めて今回の件を深刻に受け止めることを求めるとともに、同社を含むすべての報道機関に対して、今後、少年法の趣旨を十分に理解したうえこれに沿った事件・裁判報道を行うべきことを切に要望するものである。

 

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