奈良弁護士会

成年後見制度の利用の促進に関する法律に対する会長声明

 奈良弁護士会 
 会長 佐々木 育子

 

  1.  2016年4月8日、第190回通常国会において、成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下「法」という)が成立し、これに基づく民法の一部改正が行われた。
  2.  同法は、成年後見制度が、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより、財産の管理や日常生活に支障がある者を支える重要な手段であるにも関わらず、十分に利用されていないことに鑑み、成年後見制度の利用の促進に関する施策を、総合的かつ計画的に推進することを立法趣旨にしている。この法の立法目的に関しては、超高齢社会がますます進んでいく中で、認知症高齢者もさらに増加していくこと、また知的障害者や精神障害者の親亡き後の問題が待った無しの課題になっていることを考えると、おおいに賛同できる。また、今回の民法改正により、成年被後見人の郵便物の転送を家庭裁判所が嘱託できることや、成年被後見人の死亡後における事務(債務の弁済や葬儀費用の支払い等)の権限付与等、いままで実務上の課題であった事項がいくつか解決されている。さらに、法において、市町村長申立ての積極的な活用、地域における成年後見人等の人材確保措置や報酬の支払助成その他支援の充実、家庭裁判所や地方公共団体における人的体制の整備等、成年後見制度の利用を促進するための重点的な体制整備を基本方針とした点は、大変評価できる。
  3.  奈良県内の状況を見ると、最近発表された2015年の統計によれば、奈良県の市町村長申立件数は57件であった。奈良県では、長年、市町村長申立ての件数が伸び悩んでおり、これは2014年の市町村長申立て件数が27件であったことを考えると倍増しているが、それでも、申立件数に占める市町村長申立の割合が、全国で17.3%であるのに対し、奈良県では14.6%に過ぎない。また、奈良県は、他の都道府県と比較すると、地方公共団体において、成年後見利用支援事業の活用や、福祉的な市民後見人・法人後見団体の育成・バックアップ体制がまだまだ不十分である。そのため、奈良県内でも、法によって市町村長申立ての活性化や、成年後見制度利用のためのさらなる体制整備が進むことが望まれる。
  4.  他方、法の中でも、医療同意等については今後の検討課題とされるなど、重要であるにもかかわらず先送りとなっている課題もある。また、今後の成年後見制度利用促進計画につき国の基本方針が定まるのはこれからであるところ、その具体的内容及びその運用によっては、成年後見制度の体制整備の改善も画餅に帰すおそれがある。さらに、2014年1月20日に政府が批准した「障害者の権利に関する条約」第12条によれば、代理代行を中心とした現行の成年後見制度を、本人の意思決定支援を中心とした制度に改めることが求められているところ、成年後見人等に広範かつ包括的な代理権が付与されたり、成年後見人等の選任期間の制限も全くできない等の課題が指摘されている点につき、消費者被害からの保護の要請もふまえつつ、さらに検討されるべきである。
  5.  当会は、今後の成年後見制度利用促進計画の策定を見守りつつ、弁護士が専門職後見人として責任ある役割を果たすとともに、法人後見や市民後見など、地域の中で、社会全体で判断能力が不十分な人を支えあう仕組みを作っていくために、関係各団体と連携し、尽力する所存である。

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