奈良弁護士会

生活保護申請の代理に関する会長声明

奈良弁護士会
会長 藤井 茂久

  1. 厚生労働省が本年3月に策定した生活保護問答集(以下、「問答集」という)では、「代理人による保護申請はなじまないものと解することができる」との見解が表明されている。この問答集は、生活保護行政の運用の方針等を示すものとして取り扱われており、今後、全国各地の実施機関において、弁護士による代理申請を受付けない、あるいは弁護士を申請者の代理人として認めないとの対応がなされる可能性がある。

    しかし、上記のような見解は不当であり、当会は到底これを容認することはできない。厚生労働省は、直ちに問答集における上記見解を削除すべきである。

    また、各実施機関は、今後も、申請者から委任を受けた弁護士を申請者の代理人として認め、そのように取り扱うべきである。

  2. 上記問答集において厚生労働省は、「生活保護の申請は、本人の意思に基づくものであることを大原則としている」ことを理由に挙げるが、全く失当である。
    代理人たる弁護士は、当然、本人の意思を確認した上で申請に及んでいるところである。また、生活保護の申請行為の代理も、権利義務ないし法律関係の存否等に関する紛争を取扱うものである点で「一般の法律事務」として弁護士法3条が規定する弁護士の職務に含まれ、これをあえて除外すべき理論的根拠もない。
  3. ところで、生活保護行政におけるいわゆる「水際作戦」等の違法な運用に対し、弁護士が代理人として生活保護申請をする等の活動を行うことによって要保護者の権利が擁護された例は、枚挙に暇がない。奈良県においても同様であり、高齢者や障がい者等を含む生活困窮者の代理人として生活保護申請に関わることで、ようやく受給が開始された例が少なからず存在する。
    そもそも、生活保護行政においては、申請者に対し、実施機関による助言・教示が適切に行われておらず、その結果、生活保護受給は国民の正当な権利であるにもかかわらず、要保護者本人だけでは、なかなか行使できないのが実態である。このようなときこそ、弁護士が代理人として保護申請を行う等の支援・援助が必要となる。法テラスが、弁護士による生活保護の申請代理を日弁連委託援助業務の対象として取り扱っているのも、このような実態を前提としている。
  4. 厚生労働省の上記見解は、生活保護受給へ向けた弁護士による支援・援助をも強く制限するもので、ひいては憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」すら脅かしかねない。

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