奈良弁護士会

いわゆる「袴田事件」の速やかな再審公判の開始と無罪判決を求めるとともに、再審手続制度の改正を求める会長声明

  1. 東京高等裁判所は、2023年3月13日、いわゆる「袴田事件」第二次再審請求事件について、再審開始を決定し、同決定はその後確定した。「袴田事件」の概要及び審理経過は、日本弁護士連合会の2023年3月13日付「「袴田事件」再審開始支持決定を評価し、検察官特別抗告の断念を求める会長声明」において述べられたとおりである。
  2. 袴田巌氏は、1966年に逮捕され、1980年に死刑判決の確定を受けた。袴田氏は、死刑判決の確定以来、再審開始決定確定に至るまでの、実に43年間、えん罪の疑いが極めて強い状況下にあったにもかかわらず、再審手続において、自らの無実を主張する機会を奪われ続けてきた。袴田氏は、現在87歳と高齢であり、長期にわたる身体拘束により心身を病むに至っている。このような経緯からも、速やかに再審公判手続を進め、袴田氏に対し、無罪判決を言い渡すべきことは明らかである。
  3. また、我が国の再審請求審においては、再審開始事由の有無について極めて厳格な判断がなされてきた。えん罪からの救済を目的とする再審制度において、再審開始事由の有無を、このように厳格に判断すること自体の当否については議論があるが、袴田事件における再審請求審においても同様に、再審開始事由の有無について、検察官と請求人の双方が主張立証を尽くしてきた。そうであるにもかかわらず、報道によれば、検察官は、2023年4月10日の三者協議の場において、再審公判における立証方針の検討のため、3か月もの猶予を求めたとのことである。しかしながら、前述のような本件の経緯や袴田氏の現在の状況に加えて、再審請求審における審理経過を踏まえれば、このような検察官の要望は、無罪判決が言い渡される時期をいたずらに遅らせるのみであり、到底許されるべきではない。
  4. このような問題が生じるのは、再審に関する刑事訴訟法上の規定が、わずかに19条しかなく、その多くが、再審を開始すべき場合や、再審を申し立てることのできる者、再審の効力等といった、事実の取調以外の事項について定めるのみだからである。これでは、えん罪からの救済を得るという、再審請求人にとって、これ以上になく重大な利益が、十分に保護されているとは到底いえない。
    この点に関して、刑事再審制度の改正の必要があることについては、当会が2023年5月29日に公表した、「刑事再審制度の改正に関する総会決議」においても指摘したところである。袴田事件においても、同決議において指摘したような本来あるべき手続規定が存在しなかったことによって、再審開始決定が早期に確定せず、重大な疑義のある死刑判決が、40年以上もの長期にわたって、維持され続けてしまった点を看過することはできない。もはや、再審請求審の有り様を裁判所の幅広い自由裁量に委ねるべきではないことは明らかであり、刑事訴訟法の改正によって、適正手続(憲法31条)の保障を前提とした、法律上の統制下に置くべきである。
  5. 以上の次第であるから、当会は、袴田氏に対する速やかな再審公判の開始と、無罪判決を求め、あわせて、袴田氏のように長期にわたり再審制度による救済を得られない人のないよう、再審手続制度の改正を求めるものである。

以 上

2023年(令和5年)6月27日
奈良弁護士会   
会長 山 口 宣 恭

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