奈良弁護士会

オンライン接見の法制度化を求める会長声明

  1. 法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会(以下、「本部会」という。)では、刑事手続のIT化の議論が進んでいる。本部会では、被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(電子データ化された書類の授受を含む。以下、「オンライン接見」という。)を刑事訴訟法39条1項の接見として位置付けることが検討されている。
  2. (1)憲法34条前段は、被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受け刑訴法39条1項は、被疑者・被告人が弁護人と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている。この点、オンライン接見も、刑訴法39条1項の接見交通権の行使に含まれるものと解するべきであり、オンライン接見は、権利性を有する法律上の制度として、法制審議会を経て制定され、国家予算を投じて運営されなければならない。身体の拘束を受けている被疑者・被告人の防御にとって不可欠でその要請は身体拘束の直後であれば更に強い。
    (2)特に、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。ところが、現在、日本では逮捕段階における公的弁護制度が創設されていないため、被疑者は、身体を拘束された直後の重要な時期に、弁護人の助言を受けられず、虚偽自白やえん罪の危険に曝されるという、重大な防御上の不利益を被っている。したがって、逮捕段階においては、身体を拘束された被疑者が、要請をした直後、弁護人あるいは弁護人となろうとする者から黙秘権告知等の助言を受け、速やかに弁護人の選任を済ませる必要があり、地理的条件を問題としないオンライン接見は上記を実現する制度として極めて重要な意義を有する。
  3. また、当会では、下記のようなオンライン接見制度創設を基礎づける具体的事情がある。当会においては、場所によっては車で片道1時間半(奈良市内から五條警察署)となり、公共交通機関ではさらに時間を要する。この点、奈良警察署と五條警察署の間では電話接見制度があるが、前日までに予約の必要があり、身体拘束直後の速やかな対応ができない。また、限られた警察署間でのみ利用可能である等、制限が多く、不十分なものである。さらに、奈良の問題に限らず、全国的に見ても、被告人が起訴後に遠隔地所在の刑事施設に移動することもあり、こうした場合、地理的な要因によって起訴後の接見が困難になることがある。そのため、公判前整理手続や公判手続の遅延を招いたり、起訴後に十分な接見が受けられない事態が生じたりするのであり、裁判所支部では扱わないことが多い裁判員裁判や法定合議事件等の重大事件における起訴後の遠距離移送などがその例である。このように、現行の捜査段階の接見や公判段階の接見は、いずれも全国的な課題を抱えており、これらの問題解決のためには、遠隔地に所在する留置施設等と各地方裁判所本庁周辺の刑事施設等を、相互に管轄の別なく接続する必要が極めて高く、オンライン接見制度であればこれらの問題を解消することができる。 
  4. 本部会においては、捜査機関側から、オンライン接見について、実施設備に伴う人的・経済的コストの負担や、なりすまし等の危険がある等の問題が指摘されている。   しかし、新たな設備の整備等に伴い人的・経済的コストが増えるのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することであり、オンライン接見に限った問題ではない。本部会では、取調べ、弁解録取、勾留質問等をオンラインで行うことが具体的に検討されているが、それが可能であれば、オンライン接見も可能なはずである。捜査機関の利便性のみではなく、被疑者・被告人の人権保障を実現する観点でも、人的物的対応体制・予算措置の拡充の議論が尽くされなければならない。また、アクセスポイント方式を採用した現行の電話連絡制度や電話による外部交通制度において、例えば弁護人が第三者になりすましたり、罪証隠滅を図ったりするなどの事例は報告されていない。現代のITの進歩は目覚ましく、こうした弊害を除去するための現実的な措置は、アクセスポイント方式を例として、十分に存在しているといえる。
  5. 刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者・被告人の人権保障を実現するという観点で進められるべきである。当会は、法制審議会にて更に具体的な議論が尽くされ、オンライン接見が実現されることを強く要望する

2023年(令和5年)7月18日
奈良弁護士会     
会 長 山 口  宣 恭


戻る