奈良弁護士会

司法修習給費制の堅持を求める声明

奈良弁護士会
 北岡 秀晃

  1. 司法制度改革推進本部法曹養成検討会は、本年6月15日の検討会において、平成18年度から司法修習生に給与を支給する制度(給費制)を廃止して貸与制を導入するとの意見を取りまとめたが、国家的使命としての法曹養成制度の重要性に鑑みれば極めて遺憾なことと言わざるを得ず、奈良弁護士会は改めて給費制の堅持を強く求めるものである。
  2. わが国においては、「法の支配」を具現化し国民の権利擁護及び社会正義を実現するという法曹の使命の重要性・公共性に鑑み、司法試験合格後に司法修習を課して、専門的能力と職業倫理を兼ね備えた質の高い法曹を養成する制度がとられてきた。
    そのため、司法修習生に対し、兼業の原則禁止をはじめとする厳しい修習専念義務を課す反面、その生活を保障するために給費制が実施されてきたのである。これにより、貧富の差を問わず広く優秀な人材に法曹資格を取得する門戸が開かれ、多くの優れた人材が、裁判官・検察官・弁護士等として輩出され、わが国の発展と国民生活の安定に貢献してきた。
  3. 本年度から始まった法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度においては、大学卒業後、法科大学院に2年ないし3年間の在学が必要とされ、法曹を志す者が司法修習生になるまでに多大な経済的負担を負うことになった。
    ところが、司法修習生の給費制が廃止されれば、さらに司法修習中の経済的負担が増大することは必至である。にもかかわらず給費制廃止を強行するならば、21世紀の司法を支えるにふさわしい資質・能力を備えた優秀で多様な人材が経済的事情から法曹への道を断念し、経済的富裕者層のみが法曹資格を取得する事態の到来も危惧され、その弊害は極めて大きい。
  4. また給費制による統一司法修習制度は、在野法曹としての弁護士の公共性・公益性を担保する制度としての役割を歴史的に果たしてきた。
    国選弁護制度、当番弁護士制度、各種管財人等の業務、法律相談センター事業、法律扶助事業、さらには近く開始される被疑者段階からの公的弁護制度等、弁護士・弁護士会による広範な各種の公益活動は弁護士の公共性・公益性を具体化したものであって、給費制に基づく現行統一司法修習制度は、かかる弁護士の公共性・公益性を基盤とするものである。
  5. これまで検討会では、貸与制への移行に関連して、任官者に対して貸付金の返済を免除する制度の当否が議論されている。しかし、かかる制度は実質的に任官者のみについて給費制を維持するに等しく、法曹三者の平等・公平の理念に基づく現行司法修習制度を差別化し、著しく変質させる危惧が極めて大きく、法曹のあり方に重大な悪影響を及ぼすことになる。
  6. 以上のとおり、司法修習生に対する給費制の廃止は、司法修習制度の根幹を揺るがす制度改悪であると言わざるを得ず、国民が求める優秀で多様な人材による法曹養成という法曹養成制度の目的に背馳することは明らかである。
    よって、当会は、司法修習の給費制廃止による貸与制の導入に反対し、給費制の堅持を強く求めるものである。

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